日めくりプロ野球 2011年10月

【10月22日】1959年(昭34) ルーキーの単独キングは許さん!森徹 執念の1試合2本塁打

[ 2011年10月22日 06:00 ]

 【中日5―2阪神】互いに2位の座がかかっていた阪神、中日にとってペナントレース最終日の甲子園でのダブルヘッダーは、単なる消化試合ではなかった。それと同時に、野球人生の大きな1日を迎えている選手、監督もいた。

 その1人が中日の4番森徹右翼手だった。森は打点85でほぼタイトルを手中にしていたが、もう1つ手が届きそうな勲章があった。29本塁打を放ち、リーグ2位で、トップの大洋の新人・桑田武三塁手の31本に2本差に迫っていた。「フルスイングして誰もが認めるような豪快な本塁打を打つ」という美学を持っていた森にとって、打点王よりも欲しいタイトルだった。

 2回、森の1打席目。阪神先発はエースの小山正明投手。この試合で通算100勝目がかかっていた。カウント1―1からの「内角高めの真っ直ぐ」(森)をたたいた打球は、理想とする打った瞬間それと分かる左翼スタンドへの30号本塁打。既に全日程を終了している桑田に1本差となるアーチとなった。

 本塁打を狙って、少々のボール球には手を出し、大振りになるところだが、大胆かつ細心な男だった。2打席目は四球。打てるボールを静かに待ち、つり球にはのってこなかった。

 そして3打席目。追い込んだ小山が外角低めの勝負球を投げ込んだが、これを逆らわず右方向へ運んだ打球は右中間スタンドまで届いた。これで桑田と並びホームランキングに並んだ。

 「森一人にやられた」。阪神の田中義雄監督は、吐き捨てるように相手の4番バッターの2発を振り返った。森の2本塁打はともにソロで、直接試合を決めたものではなかったが、延長10回に3点を奪われたのも、当たっている森を敬遠して5番江藤慎一一塁手と勝負した結果だった。

 小山の100勝は来季までお預けになり、敗れた阪神は続く第2試合も2―2の引き分けに終わり、勝率5割1分2厘で中日に並ばれ同率2位に。かろうじて最終戦での3位転落を免れたが、「皇帝」という意味の“カイザー”の異名をとる田中監督は「今年ほど疲れたシーズンはなかった」と試合後辞意を表明。前半戦でつまずき、一時は最下位まで落ちた阪神は、巨人に13ゲーム差を許して敗れた責任をとる形となったが、森の2発がなければ、単独2位が決まり、続投の可能性があっただけに、森が引導を渡した格好になった。

 「2本とも内角高めを打った。風邪をひいていて、思うように力が入らなかったが、逆に余分な力が抜けたのがよかったのかもしれない。一時6本差になった時はあきらめかけたが、チームメイトが励ましてくれたので心強かった。正直、打点王よりうれしい」と森。親交のあるプロレスラーの力道山から祝電も届き、上機嫌だった。

 打たれた小山の談話は、1本目は「真ん中、やや外寄り」、2本目が「外角低め」としていたが、森は「2本とも内角高め」と言った。それには意味があった。子どもの頃から目が良くない森のウイークポイントは内角高めにあった。それを知られまいと森はホームラン談話では決まって「内角高目を打った」と言うことが多かった。すると、「次から相手投手はそこに投げてこなくなった」という。

 発言にまで気を遣ってのタイトル奪取。実働11年、通算189本塁打の森が打撃部門のタイトルを獲ったのは、この年のみだった。

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