日めくりプロ野球 2011年10月

【10月5日】1981年(昭56) 代走・青木実 ライバルの前で盗塁王ほぼ確定

[ 2011年10月5日 06:00 ]

 【ヤクルト6―4巨人】ライバルにショックを与えるには、目の前で決めるしかない。後楽園での巨人―ヤクルト26回戦の6回、ヤクルト・大杉勝男一塁手の左前打が飛び出したところで、武上四郎監督は代走に青木実外野手を送った。

 この試合を入れて残り3試合。すでにBクラスが確定したヤクルトだが、青木の戦いはまだ終わっていなかった。ここまで盗塁32個を記録。2位は巨人の“青い稲妻”松本匡史外野手で29個。3個差で残り試合は同じ3試合。この日、松本が1盗塁を決めて差を詰められていただけに、再度4個差にしてタイトルを確実にしたいところだった。

 巨人もそのことは分かっていた。青木がピンチランナーで起用されると、マウンド上の新浦寿夫投手は執拗に牽制球を投げた。「ここでひるんじゃいけない」と青木。リードの幅はベースから4歩半。左腕の新浦相手にかなりの冒険の歩幅だが、これは譲れない。最大限の集中力を発揮し、初球から走った。

 低い姿勢でダッシュし、スライディングは最後の瞬間で足を思い切り伸ばす、ユマ・キャンプから近藤昭仁守備走塁コーチと取り組んできた練習通りにやって見事成功。松本との差はまた4個になった。

 「ここまできたら何が何でもタイトルが欲しいんですよ。6年目できた最初のチャンスですから」。普段は無口な男が、ここ数日盗塁王のことを聞かれると、熱い口調になった。日産自動車からドラフト5位で入団。代走と守備固め専門だったが、広岡達朗前監督に足のスペシャリストとして抜てきされて1軍定着。81年は若松勉、スコットのけがでスタメン起用の機会が増えてここまで盗塁数を積み上げてきた。

 これで勝った、と確信した青木だったが、残り2試合で松本も猛追し、4個の差を埋めて33盗塁まで到達した。ヤクルトは残り1試合。青木はこの試合に全てを賭けた。10月14日、広島市民球場での広島26回戦の2回、釘谷肇左翼手の安打が出ると、青木が早くも登場。北別府学投手と水沼四郎捕手のバッテリーに挑戦した。

 打者芦沢優捕手の初球に迷わず走った。好スタートを切った青木は悠々二塁に到達。スライディングから立ち上がると、思わずガッツポーズが出た。

 推定年俸470万円。賃貸物件に住むには足りない稼ぎではなかったが、夫人の実家暮らしだった。目標は自宅マンションの購入。そのためにも年俸アップが必要だった。塁に出るたび、青木は心の中でつぶやいた。「この足だけで家を買う」。タイトル料に年俸アップで、念願の引越しをした青木。代走屋が輝きを放った瞬間だった。

続きを表示

バックナンバー

もっと見る