日めくりプロ野球 2011年8月

【8月30日】1977年(昭52) 騒いでも気にしません 斉藤明雄 世界記録を前に完封勝利

[ 2011年8月30日 06:00 ]

先発完投型の投手からクローザー、そしてまた先発と大洋のマウンドを守り続けた斉藤明夫

 【大洋5―0巨人】8回、4球目のカーブを打ち損じると、打球は力のない三ゴロ。大きなため息とともに、観客席を埋め尽くした5万人の大観衆の多くが、席を立ち家路急いだ。お目当ての打席はまずこれが最後だと思えば、帰りの電車が混まないうちにと誰もが思った。

 後楽園の巨人―大洋21回戦。巨人・王貞治一塁手が本塁打世界記録に並ぶ755号本塁打にあと1本に迫っていた試合だったが、大洋の新人右腕斉藤明雄(現、明夫)投手の前に、四球、一ゴロ、右前打、三ゴロに終わり、快音は聞かれなかった。

 斉藤はプロ初完封勝利。日本中が王の“本塁打狂騒曲”で沸き返る中、ルーキーはマイペースで巨人を散発5安打でシャットアウトした。度胸満点の投球だった。

 「僕は王さん相手じゃなくて、巨人相手に投げただけ。打たれたら打たれたで仕方ないと思って、勝負した」と斉藤。1打席目にストレートの四球を出してしまい、ブーイングの嵐に見舞われた。「最初はちょっと怖がっていた。けど、あれで燃えた。勝負しなきゃって」。ストレートを見せ球に得意のカーブ、フォーク、スライダーと持ち球全部を使って対戦。裏をかいて、いつもの上手からではなく横から投げたカーブは真ん中に。受けている福嶋晃久捕手が「目をつぶった」というような大胆なボールも投げて、王に満足な打撃をさせなかった。

 「あのカーブは甘かったね。唯一ホームランに出来るボールだったが、あそこで横から投げてくるとは…」と王も思わぬ投球にビックリ。完敗した長嶋茂雄監督も「度胸あるねぇ。ワンちゃんの本塁打記録がかかっている試合で大胆に投げられる新人はただ者じゃない。うちが3つもやられるわけですよ」と、対巨人戦これで3勝の右腕に脱帽した。

 京都・花園高時代は外野手。大阪商大で本格的に投手になり、大学通算30勝をマークし、ドラフト1位で大洋入り。キャンプ中のシートバッティングで9連続安打を食らっても「ストレートが走っているから問題ない」と強がり、広島とのオープン戦もいきなり先頭の衣笠祥雄三塁手の頭部に死球を投げても「四球を出して野手のリズムが狂うよりはいい」と、驚き発言の連発。この日も試合前に緊張するどころか、選手用サロンでアイスコーヒーを飲みながら「打たれたらどういう行動をとろうか?王さんと一緒にダイヤモンドを周ろうか?ホームで握手してもらおうか」と冗談を飛ばすほどだった。

 1年目は最終的に7勝8敗だったが、見事に新人王に。この巨人戦での大胆完封の印象が決め手となったことは言うまでもない。
 

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