【内田雅也の追球】「明日」へ、見えた闘志

[ 2024年8月10日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3―6広島 ( 2024年8月9日    京セラD )

<神・広>5番手で登板した岡留(撮影・大森 寛明)
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 『星の王子さま』で王子は「大切なものは目には見えない」とキツネに教えられた。「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ」

 なるほど、心で見ていると、野球でも「大切なもの」が見えてくる。その一つは、闘志である。

 阪神は2ゲーム差で追う首位広島との大切な3連戦初戦だった。結果は手痛い敗戦だった。

 しかし、たとえば、0―4の5回裏に1点を返す二塁打を放った中野拓夢の試合中コメントにある。「この試合、何とか食らいついていくためにも1点を返したかった」。伝わるのは、この一戦にかけた闘志である。

 8回裏の反撃で3―6で迎えた9回表1死二、三塁で監督・岡田彰布が動いた投手交代にも不屈の闘志が見えた。指揮官の闘志が伝わったかのように、5番手・岡留英貴は後続を断った。

 1983(昭和58)年夏の甲子園大会準決勝。夏春夏の3連覇がかかる池田はPL学園に0―7と完敗した。池田の名物監督・蔦文也が「いつ敗戦を覚悟されましたか」という問いに「9回に江上、水野が凡退した時じゃ」と答えた。9回2死まであきらめていなかったのだと言ったのだ。

 甲子園球場で熱戦が展開されている高校野球は負ければ終わりの「明日なき戦い」である。

 この夜の阪神は「大切な一戦」への思いが強すぎて、闘志が空回りしていたかもしれない。

 先発の村上頌樹は広島各打者に粘られ、苦しんだ。2回表に佐藤輝明の適時失策で先取点を献上して「もう失点できない」と乱れた。3回表は1、2番に追い込んでから連打されたのが響いた。4回表は先頭の矢野雅哉に12球粘られ四球で出しのが響いた。

 村上の投球数は5回で「99」だった。文字通り「汲々(きゅうきゅう)」なら「小事に心をとらわれて、あくせくするさま」、「窮々」なら「余裕を持てず、自分を見失っている状態」と辞書にある。

 プロ野球には明日がある。ただし、高校球児に負けぬ闘志がこもっていることを知っている。

 大リーグの名将、スパーキー・アンダーソンが著書『スパーキー!』で<負け試合で最後の打者がアウトになる度に、必ず「明日があるさ」と思うようになった。いや、正確にいえば「明日があるさ」ではなく、「明日が来てくれれば」と思うのだ>と記した。希望を抱き、「明日」を迎えるのである。 =敬称略= (編集委員)

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