【内田雅也の追球】「覇気」呼んだ盗塁

[ 2024年7月22日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神12-3広島 ( 2024年7月21日    甲子園 )

<神・広>初回無死一塁、近本は二盗に失敗する(野手・矢野)(撮影・大森 寛明)
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 久々大量点を奪った打線の奮起を呼んだのは初回の盗塁だとみている。阪神は1回裏、先頭・近本光司が四球で出ると、続く中野拓夢の初球に二盗を仕掛け、憤死した。場内は歓声があがった後、ため息に包まれた。

 前夜まで2試合連続零敗を喫していた。加えて初回は6月16日ソフトバンク戦での前川右京満塁弾以降、24試合連続無得点が続いていた。

 とにかく点がほしい。早くほしい。そこに先頭打者出塁である。手堅くバントで送って……となるのが普通だろう。

 それを監督・岡田彰布は走らせたのだ。スタンドのファンはもちろん、ベンチの選手たちも少なからず驚いたはずだ。

 5日前、東京ドームで岡田は「走れと言うてるのに走らん」と嘆いていた。「走れと盗塁のサインを出しているのに走らん。どういうことや? 何もセーフになれと言ってるんやない。アウトになってもええんよ」

 この「アウトになってもええ」の意味は分かる気がする。打線低調が長引くなか、消極的になる心を奮いたたせ、果敢で積極的、攻撃的な姿勢を示したかったのだろう。

 阪急や近鉄を球団創設初優勝に導いた闘将、西本幸雄が語っていた。「大事な試合で監督がバントなど大事にいこうとすると選手が硬くなる。選手は監督の言動や立ち居振る舞い、それに作戦にも敏感に反応する」

 だから、盗塁をしたことが大切であり、失敗は結果でしかない。監督が示した姿勢や気概は選手たちに伝わっていた。

 1点を追う3回裏、梅野隆太郎の二塁打を足場に、四球をはさんで6本の単打を連ねた。久しぶりの集中打に岡田は「つないでいく姿勢を思い出せば」と期待を込めた。

 先発野手全員安打、全員得点、全員打点。昨年、岡田がよく口にした「みんなで」戦えた試合だった。前夜ブレーキとなった梅野は3安打し、自身のミスで敗戦投手となった富田蓮は1回を3人で切った。誰もが笑顔になれた。球宴前最終戦、負ければ借金、首位に4・5ゲーム差と開く危機を脱出したのだ。

 梅雨が明け、一塁アルプススタンド後方には美しい夕焼けが広がった。左翼スタンドからは満月も上がった。甲子園は誕生した100年前と変わらぬ光景があった。猛虎たちに、球団歌で「美(うるわ)しく」と歌われる「青春の覇気」が戻っていた。 =敬称略= (編集委員)

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