【内田雅也の追球】阪神園芸もうなる 土の声を聞いた岡田監督の予測「打球がはねるんよ」

[ 2023年5月22日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4-1広島 ( 2023年5月21日    甲子園 )

8回 1死一塁 代打・堂林のゴロを処理し、併殺を完成させる佐藤輝(撮影・成瀬 徹)
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 強いゴロで2バウンド目は高くはねた。阪神三塁手・佐藤輝明は少しだけ半身となり、体を後方にそらして捕り、二塁送球、見事5―4―3の併殺を完成させた。

 監督・岡田彰布が試合後「よう捕ったよ」とたたえた好守である。

 2―1とリードが1点だった8回表1死一塁、代打・堂林翔太の三ゴロである。簡単な当たりでなかったことを岡田はわかっていた。

 「今日はグラウンドが硬いんよ」と説明した。「この3連戦の前にシート掛けておけと言うたからな。あの雨(18~19日)を吸ってないやろ。同じ水でも撒(ま)く水と雨が降った水では全然違うからな。どうしても土の中の水分が足りなくなる。だから硬くて、打球がはねるんよ」

 今回の3連戦初戦の19日は雨の予報だった。試合開催に向け、岡田はグラウンドを管理する阪神園芸に内野にシートを掛けるよう依頼していた。阪神園芸は18日、雨が降り始める前にシートを掛けた。雨水を一切吸わずに3連戦が行われた。

 試合後の岡田の話を伝え聞いたグラウンドキーパーのリーダー、阪神園芸甲子園施設部長・金沢健児は「さすが岡田監督ですね」と言った。「現役当時から土について非常に詳しいですから」

 金沢によると、試合前の散水には「呼び水」と呼ぶ現象があるそうだ。「ナイターであれば、散水が呼び水となって下層に含んでいる水を吸い上げてきます。しかしデーゲームだと表面がぬれるだけで、それもすぐに乾いてしまいます。久しく雨の当たらないデーゲームは冷や冷やです」

 硬い土とはねる打球、この日の内野守備は難しかった。「だから菊池でも、なあ」と岡田は言った。昨年まで10年連続ゴールデングラブ賞の名手、広島・菊池涼介も3回裏先頭のやや二塁ベース寄りのゴロをはじいた。今季初失策だった。

 阪神はこの先頭出塁を生かし、バントと2死後、中野拓夢の適時打で先制したのである。

 一方で阪神は先に書いた8回表や6回表の併殺など、よく守った。

 かつて「甲子園の土守」と呼ばれたグラウンドキーパー藤本治一郎(故人)は土と話ができた。「土も自然の雨に打たせてやらんとあかん。土も拗(す)ねるんや」

 阪神の選手たちも土の気持ちが少しはわかるようになってきた。そんな勝利である。 =敬称略=
 (編集委員)

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