トラウト WBCは「子供の頃に戻ったよう…僕にとって特別だった」 エンゼルス同僚大谷と似た高揚感

[ 2023年3月29日 08:00 ]

WBC決勝<日本・アメリカ>試合前、トラウト(右)と抱き合う大谷(撮影・光山 貴大)
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 第5回WBCでは主に日本以外のチームを担当した私にとって、この大会での最後の取材対象はマイク・トラウト外野手(エンゼルス)だった。

 トラウトに1対1でじっくりと話が聞けたわけではない。3月21日、マイアミのローンデポ・パークで行われた決勝戦で日本に敗れた直後。米国のロッカールーム前の取材ゾーンに陣取った大勢の各国メディアの一人として、米国の主将を務めた背番号27を待ったのだ。

 数十人に及ぶ記者たちの存在に驚きを隠さなかったトラウトだが、そこでは決勝で敗れた悔しさと、同時にWBCの魅力を熱っぽく語り続けた。

 「普段、ファンはエンゼルスの応援をするが、この大会では観客は国を応援する。通常とは違うんだ。違いを説明するのは難しいが、それを感じる。特別な感覚だ。それを感じられるのはクールなことだ」

 単なる社交辞令とは思えない。得てしてビジネスライクな米国代表の中で、実際にトラウトほど楽しそうにプレーしていた選手は少なかった。フィールド上での笑顔を見れば、素晴らしい時間を過ごしていたのは一目瞭然。もともと早々と出場を決めて他の選手たちを勧誘したと伝えられる31歳は、プエルトリコのエドウィン・ディアス(メッツ)が右膝に重傷を負った後ですら、「WBCを責めるのはフェアじゃない。これまでこれほど楽しい経験をしたことはない」と大会を擁護し続けた。

 それほどの熱っぽさの背景に、所属するエンゼルスがチームとして成功に恵まれていないことの影響もあったのだろう。メジャー最高の選手との称号を欲しいままにするトラウトだが、信じがたいことにプレーオフの出場経験はわずか3試合(14年)で、出場時のチームの勝利はゼロ。過去7年は全て勝率5割以下という惨状で、負けるのが当たり前になっている印象がある。

 そんなスーパースターにとって、優勝にあと一歩まで迫ったWBCの経験が新鮮だったことは理解できる。これまでプロでは味わったことがない感覚だったのだろう。そして、同じエンゼルスでプレーする大谷が侍ジャパンでは誰よりもフィールド上で感情的に見えたことは、偶然ではないのかもしれない。

 「望んでいた結果ではなかったが、これもベースボール。厳しい夜だったが、僕たちはまた戻ってくる。これまでで最高に楽しい10日間だった。子供の頃に戻ったように感じた。WBCは僕にとって特別だった」

 大会後にそう話したトラウトのキャリアに、WBCでの経験がどう影響していくかに注目したくなる。あれほどの緊張感と興奮を味わった後で、エンゼルスでもこれまで以上に勝利に執着する姿が見られるのではないか。それでも低迷が続いた場合、過去と違う反応を見せる可能性もあるのではないか。それらはエンゼルスと今季が契約最終年の大谷に、どんな形で響いてくるのか。第5回にして過去最高の盛り上がりを見せたWBC。その主役の一人となったスーパースターにとって、この大会はキャリアの分岐点の一つになる可能性も十分にあるように思えてならない。(杉浦大介通信員)

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