ダルビッシュの“楽しむ姿勢”がつくった侍ジャパンの道筋

[ 2023年3月24日 05:20 ]

優勝を決めダルビッシュ(中央左)と抱き合う大谷
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 【侍ジャパン正夢舞台裏】日本国内と米国でのWBCの捉え方は異なる。米国生活の長いダルビッシュが「国別対抗戦」と表現した通り、現地ファンはスター選手の集まる球宴のようなお祭りムードを楽しんでいた。メキシコの左翼手アロザレーナが試合中にファンのサインの求めに応じる、シーズン中ではありえない光景もあった。

 「野球を楽しむ」という考えこそダルビッシュが伝えたかったことだ。パドレスの幹部と交渉して大リーガーで唯一、宮崎強化合宿から参加。メンバーのふるい落としが行われたこともあるかつての緊張感漂う合宿とは一線を画す、和やかな雰囲気づくりに努めた。

 優勝を逃した過去2大会ではミスをした選手が自身を「戦犯」と呼び、涙を流して謝罪した。「温度的にというか、気負い過ぎ。戦争に行くわけじゃない」。負けたら日本に帰れないという空気に疑問を感じていた。重圧は当然だが、そこに落とし穴を見ていた。

 合宿では、練習中に選手を集めてスマホで記念撮影をした。ファンのサインに応え、他の選手もまねした。「宇田川さんを囲む会」と題した投手全員や、野手全員の食事会に参加して投打、年齢の壁を取り壊した。米国ではあえて準決勝前夜に決起集会を主催した。合宿休日にはスワンボートに乗る姿をSNSに投稿。渡米後、他の選手たちもマイアミ観光を楽しむ様子や、試合の観戦風景を投稿して続いた。自然体の一体感をつくり上げた。

 「自分は特別ではない」と言い続け、メジャー選手を特別視させなかった。最初は構えていた若手投手陣は「だんだん慣れてきた」といたずらを仕掛けるまでに。メジャー選手に対する畏怖の念は消えた。決勝で米国の強力打線を封じ込めた7人継投。中継ぎ4人の戸郷、高橋宏、伊藤、大勢は平均年齢が22・5歳。メジャー軍団に臆せず立ち向かった。

 「ダル塾」と評された技術的助言は、今後も生かされる。グラウンド内外での貢献に栗山監督は「“ダルビッシュ・ジャパン”と言ってもいい」と敬意を表した。09年の第2回WBCの胴上げ投手で唯一、世界一を知っていた選手。未来への道筋をつくった。 (WBC取材班)

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2023年3月24日のニュース