侍ジャパン・栗山監督独占手記「誠意を持って伝えれば、あれだけの選手が動いてくれる。人って凄い」

[ 2023年3月23日 05:20 ]

WBC決勝   日本3-2米国 ( 2023年3月21日    マイアミ )

<日本・米国>優勝し、トロフィーを手に歓喜の栗山監督(中央)ら侍ジャパン(撮影・光山 貴大)
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 侍ジャパンを3大会ぶりの世界一に導いた栗山英樹監督(61)が、スポニチ本紙に独占手記を寄せ、世界一の「夢」実現までの思いをつづった。

 夢だったのか、イメージしていたのか自分でも分からない。最後のマウンドで翔平がガッツポーズしているシーンは以前から頭にあった。それが現実になってくれた。でも、実は肝心の最後の姿は見ていない。トラウトが空振り三振したのを確認し「よっしゃー!」って、ベンチでコーチたちと抱き合った。

 想像していたのは、ダルビッシュが両手を広げて喜ぶ09年のWBC決勝のシーンの姿だ。後で、翔平がグラブと帽子を投げ捨てて派手に喜んでたと聞いて、本当に良かったなぁと改めて思った。1点リードの9回。ダブルプレーで2死となり、最後の打者がトラウトとなった時、「あっ、これは勝つんだろうな」と自然に思った。翔平がトラウトを打ち取って世界一が決まる。こんな場面は誰が意図してもつくれない。きっと翔平たちが苦しみ、頑張ってきたことを野球の神様が認めてくれたからなんだろう。

 翔平とダルビッシュには、決勝で投げるかは自分で決めるように伝えていた。2人は日本時間16日の準々決勝に登板。この時期にメジャーの投手が日本からの移動を挟んで中5日なんて、普通はあり得ない。それでも、待っていた。翔平には18日(日本時間19日)に話して、体の状態を確認。ダルビッシュとともに登板を決めたのは今日(同22日)だったが、彼らの野球観なら世界一の懸かった決勝に「投げる」と言うと思っていた。ただ、言葉通りにやりきったのは凄いの一言だ。

 翔平には「世界一の選手を目指そう」と言ってメジャーへ送り出した。思えば、日本ハム時代に「チームを勝たせろ」と言った16年に日本一。今度は侍ジャパンが世界一になってMVPに。まだ褒めたりはしないけど、世界一の選手という道を真っすぐ歩んでいることは間違いない。

 それにしても、これだけのメンバーがよく集まり、みんなが一体となり、ひたすら一生懸命に野球をやってくれた。今回の手記にあたり、吉田松陰が好んだ言葉「至誠にして動かざる者は未だ之れ有らざるなり」を書かせてもらった。誠意を持って伝えれば、あれだけの選手が動いてくれる。人って凄い。そう感じた大会でもあった。不振で苦しんだ宗隆(村上)とは話し、メールも送った。準決勝の1点差の9回。無死一、二塁の場面、送りバントで牧原も用意させていた。でも、違う。自分の中にふっと降りてきた。「最低でも外野フライで走者を三塁に進めてくれる」と。それに最高の形で応えてくれた。そして今日の同点アーチ。彼は世界が驚く打者なんだ。

 「勝つんだな」と確信した9回。天国の闘将・星野仙一さんに心の中で「今、見てますか。勝ちますよ」と語りかけた。侍ジャパンの監督に就任した一昨年12月。「本当に自分が監督でいいのか」と思い、星野さんの墓参りをした。その時「何をごちゃごちゃ言っとるんや。お前がやるんだ。しっかりやれ!」。あの怒声が聞こえた気がした。その声に背中を押され、今日がある。ひたむきに、魂を込めた全力プレーで世界一を勝ち獲った選手たちに言いたい。「ありがとう。素晴らしかった」――。(侍ジャパン監督)

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2023年3月23日のニュース