【虎番リポート】阪神・西純飛躍のきっかけはジャイロ回転の新球「フォースラ」

[ 2023年2月9日 07:30 ]

昨年9月、フォースラを見せる西純
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 阪神・西純のブルペンでの存在感が増してきた。1メートル84、98キロの巨体に加え、直球の迫力も抜けている。キャンプ初日、岡田監督は真後ろで投球を見守り、何度もうなずいた。

 昨年の2月1日時点は、プロ1勝のひよっこ。それが、昨季6勝(3敗)を挙げ、今季2桁勝利を期待されるようになった。

 飛躍のきっかけは、突然訪れた。22年初登板の5月1日巨人戦(東京ドーム)。新しい球種を、驚くことに、試合中に覚えたのだ。

 「(右打者の外角へ)カットボールっぽく曲がりながら落ちるボールを、試合中に見つけて。力みでそうなったのか分からないけど、うまく落ちて、“あ、これいいな”と」

 ひらめきで生まれた最速148キロの高速フォークは、大砲が並ぶG打線に効果てきめん。持ち味の150キロ台の直球がさらに生きて白星を手にした。

 高速の新フォークを「フォースラ」と呼ぶ。フォークとスライダーを合わせた造語で、握りは独特だ。通常フォークのように人さし指と中指を均等に挟んで「抜く」のではなく、中指を深めに握って「中指で思い切り引っかけるようにして」、打者に向かって時計回りの回転をかけるようにして腕を振るのだ。

 「通常フォークに比べて2~3キロ速い」という速さで、時に横に、多くが縦に鋭く落ちる。今や「フォースラは打たれない」と自信を持つまでになった新フォークはなぜ、それほど落ちるのか。

 ボールの周りの空気の流れを分析して、「フォークボールが落ちる謎」を、世界で初めて解明した流体力学の専門家、東工大の青木尊之教授はジャイロ回転が多くかかっている可能性を指摘する。「ジャイロ回転」は、縦回転でも横回転でもなく、鉄砲の弾や、ラグビーのスクリューパスのように、らせん回転で捕手に向かって進むボールだ。

 同教授の研究で、ジャイロ回転の成分が多いフォークは、空気の力によって、通常フォークよりも落ちることが分かっている。通常フォークは、直球と同じバックスピンの成分によってボールを上方向に押し上げる「揚力」が残るが、「フォースラ」のようにジャイロ回転の成分が強くなると、その「揚力」が影を潜める。その結果、重力の影響を受けやすくなり、鋭く落ちるのだ。

 回転をかけるように投げる西純の「フォースラ」を「ジャイロ成分が多いと下に落ち、それが少なくなると、スライド回転の成分が増えて横に曲がるのではないか」と推測した。科学に裏打ちされた武器を携え、虎のエースへと駆け上がる。(倉世古 洋平)

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2023年2月9日のニュース