【内田雅也の追球】阪神はよく戦った 随所にあったひたむきさを「善戦祓い」の芽と見たい

[ 2022年8月11日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神0-3DeNA ( 2022年8月10日    横浜 )

<D・神>6回、ニゴロで一塁にヘッドスライディングする木浪(撮影・木村 揚輔)
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 プロの勝負の世界では甘いかもしれない。だが阪神はよく戦った。

 8回裏2死無走者からの3失点。ミスが決勝点を呼んだと言えば、そうかもしれない。

 だが、山本泰寛がミスしたゴロは難しい当たりだった。判定は失策だが安打でもおかしくない。安打でつながれ一、二塁。伊藤将司の牧秀悟への3球勝負、インハイ直球も悪い球ではなかった。

 うまく左肘を畳んで打たれ左越え適時二塁打となった。この時、左翼手・江越大賀の三塁送球がそれ、2人目の走者も生還したのは伊藤将が三塁後方のバックアップに走っていなかったからだ。

 それでも気持ちは分かるのだ。援護なきなか、伊藤将が保ってきた0―0均衡が破れ、緊張の糸が切れた。マウンド上、がっくりもくる。それが人間である。直後に3点目の適時打を浴びた。

 コロナ禍に襲われる阪神は近本光司まで戦列を離れた。大山悠輔、中野拓夢……ら主力が不在で戦力減退が激しい。この夜も打線低調で零敗(今季19度目)を喫した。

 猛虎党の作詞家・阿久悠が1997年、阪神を題材に本紙に連載した小説『球心蔵』に「善戦づかれ」というファンの声が出てくる。「善戦はしてる。善戦という言葉はええけど、しょせんは負けや。(中略)こりゃ反動で、ムチャクチャなことになりよるで」

 今の状態か。小説では2軍から昇格した若手が活躍し「善戦祓(ばら)い」の役割を果たす。

 この夜、代役で先発する陽川尚将の打撃や木浪聖也の好守・激走があった。3点を追う9回表は島田海吏が食らいついて内野安打。2死一、二塁の一発同点の打席で佐藤輝明は11球粘った。これらのひたむきさを「善戦祓い」の芽と見たい。

 感染症による主力の大量離脱は65年前にもあった。1957(昭和32)年5月下旬から6月にかけてのインフルエンザ(流感)禍だ。世界的なパンデミックで通称「アジアかぜ」と呼ばれた。

 当時マネジャーの奥井成一によると、入院した選手はのべ42人。ベンチ入りが14~15人の時期もあり、7連敗を喫した。

 それでも8月には6連勝、7連勝で首位に立った。最終1ゲーム差の2位だったが、最後まで巨人と優勝争いを演じた。

 プロには失礼かもしれぬが「善戦」の先に希望を見たい。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年8月11日のニュース