【内田雅也の追球】窮地を救うプロの泥臭さ ミスにコロナ禍…それでも控え選手の頑張りに見えた光明

[ 2022年8月10日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2―3DeNA ( 2022年8月9日    横浜 )

<D・神(18)>4回2死一、二塁、宮本の打球を一塁へ悪送球する糸原(右)(撮影・平嶋 理子)
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 星野仙一は阪神監督時代、口癖のように「先頭打者への四球は失点になる」と繰り返した。今年は日本への野球伝来150年の節目だが「野球100年の教え」だと話していた。

 2―2同点の9回裏、4番手の加治屋蓮が先頭の楠本泰史に粘られ、9球目が外れて四球を与えた。これがサヨナラ負けにつながった。

 何度か書いてきたが、1880年代の一時期、大リーグでは四死球や暴投、ボークも投手の失策として公式に記録されていた。四球は140年前は失策だったのだ。

 敗れた阪神の3失点は結局、すべてミスが絡んでいたことになる。4回裏は2死一、二塁から糸原健斗の一塁悪送球で二塁走者が還った。6回裏は先頭・牧秀悟の左前に落ちた二塁打から同点となった。あのポテン打をミスとするのは左翼手・陽川尚将に厳しい言い方になるが、ギリギリのプレーだったのは確かだ。

 もちろん、ミスばかりが敗因ではなく、打線は今永昇太に牛耳られ、得点した2回表以外、走者を出したのも右前打の木浪聖也1人だけだった。

 エース・青柳晃洋が先発した一戦を落としたのは痛恨だろう。追いかける首位ヤクルトの劣勢、敗戦も伝わっていた。

 そして何より、コロナ禍が広がっている。今月5日の大山悠輔、北條史也、8日に熊谷敬宥、この日は中野拓夢、糸井嘉男……らが戦列を離れた。今が試練の時である。

 ただ、代わって出た陽川と木浪が適時打を放った。陽川は詰まり、木浪は先っぽだったが、思いを乗せたように打球は外野の前で弾んだ。途中出場の山本泰寛に木浪も好守が光った。控え選手の頑張りに光明を見る。

 彼らも必死である。何しろ、チーム以前に自分たちの生活がかかっている。これがプロである。

 監督・矢野燿大が現役引退翌年の2011年3月に出した著書『考える虎』(ベースボール・マガジン社新書)に控え選手の「優勝のため」というコメントを<一切、必要ありません>と書いている。<「チームのため」というのはレギュラーのためにある言葉。控え選手が言うことではないのです>。そして<まず自分自身に目を向けるべきです>。

 そんな、人生を懸けた泥臭さが窮地を救うかもしれない。=敬称略=(編集委員)

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2022年8月10日のニュース