【内田雅也の追球】クリーンアップトリオが見せた一撃必殺 孫子の兵法にも闘牛士にも通じる極意

[ 2022年6月13日 08:00 ]

交流戦   阪神9ー1オリックス ( 2022年6月12日    京セラD )

<オ・神>7回1死一、二塁、佐藤輝は右越えに2点適時二塁打を放つ(撮影・後藤 大輝)
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 クリーンアップは塁上の走者を掃除するという意味だ。アメリカでは4番打者をクリーンアップヒッター、日本では3、4、5番をクリーンアップトリオと呼ぶ。

 阪神は全9得点を近本光司、佐藤輝明、大山悠輔のトリオがたたき出した。最後の佐藤輝3ランはおまけの花火とする。

 特筆すべきは、勝利を決定づけた6点、4本の適時打がすべて、その打席での最初の一振りで仕留めたことだ。

 各打席を書き出してみる。(〇=見逃しストライク、●=ボール、■=打球)

 【3回表】近本中前先制打=●●●〇■、佐藤輝右前適時打=■
 【5回表】大山右前2点打=〇●○■
 【7回表】佐藤輝右中間2点二塁打=■

 佐藤輝はともに初球、近本は3ボールから1球見送った後、大山は追い込まれた後と、カウントも球種もコースも異なるが、一振りで快打した。一撃必殺である。

 これまではよく、最初はファウルや空振り、または凡打になり、追い込まれていた。集中力を高め、力みを払い、鋭く振り抜いた結果だ。スローガン「イチにカケル!」を実践できたわけだ。

 孫子の兵法の「険にして短」である。「険」は弓を引いた時のように力を蓄えること、「短」はその力を一気に出し切ることをいう。

 同じことをアーネスト・ヘミングウェーの小説『敗れざる者』=『男だけの世界』(新潮文庫)所収=で闘牛士が語っている。剣で牛を仕留める極意をスペイン語で「コルト・イ・デレチョ」という。英語にすれば「ショートリー・アンド・ダイレクトリー」。小説では「瞬時に、まっしぐらに」とルビがあった。

 孫子も闘牛士も準備を整えたうえ、勢いをもって攻めろと説く。今の阪神の打者にはチーム好調に乗った勢いもある。

 快勝で交流戦を終え、3位に2ゲーム差と視界にとらえた。リーグ戦再開まで4日間を上昇機運で過ごせる。

 あの1985(昭和60)年、前半戦最終戦に勝ち、首位に3ゲームとしたことで監督・吉田義男は「希望を持ってオールスターブレークを迎えられた。いい練習ができた」と話した。今回の交流戦ブレークも、良き練習の日々であることを願っている。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年6月13日のニュース