【内田雅也の追球】近本の「全力疾走」と佐藤輝の「猛匍」が生んだ敵失 ビッグイニングを導いたものの正体

[ 2022年6月11日 08:00 ]

交流戦   阪神6-1オリックス ( 2022年6月10日    京セラD )

<オ・神> 5回2死二塁、近本の三ゴロで、宗の送球が大きく逸れる(一塁手・T-岡田)(撮影・大森 寛明)
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 阪神5回表のビッグイニングは相手三塁手・宗佑磨の連続失策で1点をもらい、大山悠輔3ランで仕上げたものだ。

 昨季ゴールデングラブ賞を獲得した宗の三塁守備には定評がある。今季もパ・リーグ三塁手で最高守備率(・964)、最少失策(4)だった=記録は9日現在。名手には珍しいミスだった。

 2死二塁から近本光司の、やや三遊間寄りの弱いゴロを捕り、一塁送球が本塁寄りにそれた。送球に移る際、近本が思ったより一塁近くを駆けていたから焦ったのではないか。猛然と疾走する姿が目に入ったのだろう。

 手もとのストップウオッチで計ると一塁駆け抜けタイムは3秒79と球界トップ級の速さだった。

 近本が俊足なのは言うまでもない。加えて全力疾走を怠らず、常に次塁を狙う姿勢が光る。前の打席(3回表)ではやや右中間寄りにポテンと落ちる右前打を二塁打にした。二塁到達タイムは7秒55とやはりトップ級で余裕のセーフだった。

 近本疾走が悪送球を誘って2死一、三塁。佐藤輝明のゴロは三遊間中央にシフトを敷いていた宗のほぼ正面。これを後逸した。打球が速かったのだ。強襲安打でもおかしくない当たりだった。

 草創期からのプロ野球ファン、医学博士・竹中半平は名著『背番号への愛着』(あすなろ社)でタイガースの強打者、景浦将の打球について書いている。<彼の打ったゴロは正面に飛んでもグラブをはじき出ることが多かった。「タイガースとやると、不思議にエラーが出る」という声は当時屡々(しばしば)耳にしたが、その第一の原因は景浦の猛ゴロにあったと思われてならない>。

 かつてゴロは匍球(ほきゅう)と書いた。「猛匍(もうぼ)」は藤村富美男の代名詞だった。伝説の景浦に藤村、今の佐藤輝は猛虎4番の打球を継承しているわけだ。

 6回表の追加点も2死満塁から近本の遊ゴロで一塁走者・中野拓夢が二塁セーフ(内野安打)となり奪ったものだ。この時、中野の二塁到達タイムは実に3秒04! 第2リードからスタート、疾走とゴロで二塁セーフを奪う気概が見えていた。

 ヒーローは大山であり青柳晃洋だ。陰にはひたむきな姿勢があった。得点はすべて2死からとあきらめない姿勢も見えた。今後の教訓にしたい快勝である。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年6月11日のニュース