改革すべき高校野球の「伝言ゲーム」 審判・選手・監督・観客の全員が不幸になる規則は誰がために

[ 2022年6月10日 08:00 ]

協議する審判員を見守る花巻東・佐々木麟太郎(左奥)
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 野球のルールはすべてに「理由」がある。例えば、「ボーク」は投手が走者をだますモーションをして、走者が盗塁できなくなる状況を生まないためにある。11年から16年までNPB審判員を務めた私は、一つだけ納得のいく理由を見つけられないルールがある。それは高校野球において、審判員と監督が判定について直接話すことを禁じているというものだ。高校野球ではチームが審判員に対して規則適用上の疑義を申し出る場合は、主将、伝令または当該選手に限られている。

 このルールは現場で混乱を引き起こしている。5月22日に行われた春季高校野球の岩手県大会2回戦の花巻東―一関学院戦では当初、「ファウル」だった判定を「ボール」に変更したことで、守備側の一関学院から「伝令」を通して11度の判定確認が行われた。12分間の中断時間で、八幡平球場にいた観客は降雨の中、審判員と監督との「伝言ゲーム」を見守り続けた。一度だけの珍事ではない。5月29日に行われた同大会決勝の花巻東―盛岡大付戦でも「ボール」の判定について、「死球」をアピールした攻撃側の花巻東の伝令は、監督と審判員の間を4度も往復した。これだけ試合の「スピードダウン」を促進する規則は他にない。

 当然の混乱だ。審判員は公認野球規則と各連盟や団体で定められた基準に基づいてジャッジを下す。説明をする際は審判用語や規則書の用語を使う。豊富な野球知識を持っている監督と直接やりとりすれば納得してもらえる内容でも、高校生の「伝令」を通せば状況は一変する。

 ほとんどの選手は230ページにわたる規則書を読み切ったこともないだろう。「規則書をマスターしている人」の判定説明を「素人」を通して監督に届ければ、内容が正しく伝わるはずがない。だから、説明に納得できない監督と審判員の間を伝令が何度も往復する「伝言ゲーム」は発生してしまうのだ。

 審判・選手・監督・観客の全員が不幸になる、このルールが現在も改正に至っていない理由があるならば知りたい。審判員から判定の説明を受けた監督が正しく選手に伝えることこそ、あるべき教育の姿ではないだろうか。継続試合、球数制限の導入などが行われてきた高校野球。次に改革すべきは「伝令」ではないだろうか。ジャッジはいかに…。(記者コラム・柳内 遼平)

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2022年6月10日のニュース