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【内田雅也の追球】功を奏した「走らせない」作戦 「流れ」を引き寄せた矢野監督の謙虚な選択

[ 2022年5月16日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神8-1DeNA ( 2022年5月15日    横浜 )

<D・神>5回無死満塁、右犠飛を放つ梅野(撮影・島崎 忠彦)
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 「流れ」について書こうと思う。試合中、目に見えない流れを引き寄せよう、または失わないでおこうと、選手も監督も気を配っている。

 今は日本代表監督の栗山英樹が日本ハム監督時代に出した『未徹在』(KKベストセラーズ)にこんな例がある。

 2死二、三塁から2点打を放った打者が一塁に残る。押せ押せムードで走者は俊足。盗塁させてみたくなる。だが<こういうときはあえて走らせないこともある>。「走るな」のサインを出す。

 <走塁ミスは試合の流れを変える危険性があるからだ。せっかく2点取ったのに勢いでいかせてアウトになったら、こちらに傾いていた流れを自ら手放してしまう>。

 この日、阪神が4―1と優位に試合を進めていた5回表、無死一塁。打者・糸井嘉男はフルカウントとなった。一塁走者が自動スタートのランエンドヒットをかけたいところだが、監督・矢野燿大は走らせなかった。

 3点リードに乗って走らせ、空振り三振―二盗憤死の併殺で流れを失うことを嫌ったのだろう。傲慢(ごうまん)や強引は油断につながる。勝利の女神は謙虚さを好む。

 結果はボールで四球だった。糸井が低めフォークを選球できたのは、走者が走っていなかった側面もあるだろう。

 さらに敵失の無死満塁から梅野隆太郎が右に打って犠飛、アーロン・ウィルカーソンが教科書通り一塁側にセーフティースクイズを決め、流れを決定づけたのだった。

 阪神が謙虚になれたのは直前の4回裏、DeNAの強引さを他山の石としたからだろうか。

 この回1点を返され、なお無死一、三塁。阪神は二塁上の併殺を狙う守備陣形を敷いた。内野ゴロでの1点はOKの陣形だが、相手DeNAは2人続けて凡飛で2死。さらに一塁走者の二盗憤死で流れを失ったのだ。

 重盗警戒で二塁送球の寸前、顔と左足を向け三塁走者を制した梅野隆太郎の好送球もあった。

 2回表のウィルカーソンの送りバント、3回表の糸原健斗の併殺を避けた三遊間へのゴロ打ちなど選手たちは「やるべきこと」に忠実だった。そして監督は「やってはいけないこと」をしなかった。「流れ」の正体はつかみづらい。論理や統計ではない。失敗を含む経験で得た勝負勘が生きたのである。=敬称略=(編集委員)

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