【内田雅也の追球】「不文律」の末の敗戦 正々堂々立ち向かい、潔く敗れた

[ 2022年5月7日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神0-1中日 ( 2022年5月6日    バンテリンD )

<中・神>7回無死、近本tがセーフティーバントを試みるもファウル(撮影・成瀬 徹)
Photo By スポニチ

 ベーブ・ルースの昔から、大リーグにはおきてのように、アンリトン・ルールがある。書かれざる規則である。

 たとえば「大差の試合終盤ではバントや盗塁はしてはならない」で、相手への敬意という観点でしばられる場合が多い。騎士道精神だろうか。

 この不文律に「ノーヒットノーランや完全試合をバントで阻止してはならない」がある。米ジャーナリスト、ポール・ディクソンの『メジャーリーグの書かれざるルール』(朝日新聞出版)によると、2001年5月26日、ダイヤモンドバックスのカート・シリングの完全試合を8回、ドラッグバント(内野安打)で止めたパドレスのベン・デービスに批判が巻き起こった。評論家ピーター・ギャモンズは「デービスのキャリアは1本のバントで永久に傷ものになった」と指弾している。

 野茂英雄のドジャース入り(1995年)から年々大リーグが身近になり、日本のプロ野球にも不文律が広まってきた。

 中日・大野雄大に10回表2死まで1人の走者も出せず、文字通り完全に封じられた阪神打線が、セーフティーバントを試みたのは1度だけだった。7回表先頭の近本光司の2球目でファウルになった。10回表1死には中野拓夢が構えを見せた(ボール球で見送り)。

 かつては好投する投手に、よくバントでの揺さぶりや陽動作戦をとっていたが、近年は少なくなった。ロッテ・佐々木朗希の完全試合(4月10日)の時もオリックスの打者は1度もバントのそぶりすら見せなかった。

 阪神はオリックス同様、正々堂々立ち向かい、潔く敗れたわけだ。

 ただ、何とか食い下がりたかった。イニング最多投球数は15球(5回表)。対した打者31人中、6球以上投げさせたのはのべ6人。中野、佐藤輝明、大山悠輔2度、山本泰寛、糸原健斗。最もいい当たりをしたのは最多8球粘った山本の一直だった。食らいつき、ファウルで粘りたかった。

 青柳晃洋の好投もたたえたい。日本には武士道精神がある。「エース同士の投手戦は、エースに決着をつけさせろ」という不文律があると信じている。最後は力尽きたが、青柳が敗れた試合として、記憶にとどめておきたい。 =敬称略=
 (編集委員)

続きを表示

2022年5月7日のニュース