【内田雅也の追球】西純 聞こえた亡き父の声…今季初登板で初の巨人相手に快投、プロ初安打も

[ 2022年5月2日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神8-1巨人 ( 2022年5月1日    東京D )

5回、西純は遊撃へのゴロで一塁に全力疾走しプロ初安打とする
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 5月である。映画にもなったリリー・フランキーの自伝的小説『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』(扶桑社)は少年時代から他界する母親と過ごした日々を描いている。

 <五月にある人は言った>と随所に警句がちりばめられている。<たとえ、姿かたちはなくなっても、その人の想(おも)いや魂は消えることはないのです。あなたが、手を合わせて、その声を聞きたいと願えば、すぐに聞こえるはずです>。

 今季初登板、初めて投げる巨人相手に7回3安打1失点と快投した阪神・西純矢も亡き父の声が聞こえていただろう。

 父は創志学園高(岡山)1年秋の大会で応援した帰路に脳出血で倒れ、4日後、帰らぬ人となった。45歳だった。

 ベビーカーに乗せて広島市民球場に連れてくれた。公園でキャッチボールをしてくれた。「甲子園で見たい」と楽しみにしていた。高校2年夏に出た甲子園で大会本部から注意を受けた派手なガッツポーズや雄たけびも、天国にいる父に届けたかったからだ。

 契約金は母に渡し「お母さんは大変だった。今度は自分がお母さんを助け、支えていきたい」と話していた。「親孝行の選手は大成する」と言ったのは巨人V9監督・川上哲治だ。西は間違いなく孝行息子であり、大成への道を歩んでいる。

 プロ初登板初勝利の昨年5月より球速は数キロ増し、フォークも140キロ台中盤で鋭く落ちる。制球もテンポもよく、球数は少なく、野手陣に攻撃へのリズムが出る。

 弱冠20歳が2軍で日焼けした顔に白い歯を浮かべ、味方の好守好打を喜ぶ。明るく素直な姿が活気を呼んだ。打席ではフルスイングに全力疾走でプロ初安打も記した。そんな姿勢に打撃陣が奮起し、6回表の逆転、8回表の追加点は成った。

 試合前まで打率1割7分6厘の糸原健斗が同点打し、2割ちょうどの梅野隆太郎が勝ち越し決勝打を放った。梅野は持ち味の右方向へのライナーで今季3打点目だった。

 ベンチで注意を伝え、励ますなど、西を好リードした梅野も小学4年時に卵巣がんで母親を亡くしている。
 5月である。亡き父や母の声を聞いたはずのバッテリーが快勝の立役者だった。 =敬称略= (編集委員)

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2022年5月2日のニュース