【内田雅也の追球】「未来」到達のために 示唆に富む根本氏の言葉

[ 2022年4月14日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神0-1中日 ( 2022年4月13日    バンテリンD )

根本陸夫氏の書。広島監督だった1972年当時、名古屋の美そ乃旅館に寄せた色紙=甚目泰美さん提供=
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 加治屋蓮を敗戦投手にしてしまうのも酷な話である。9回裏を3者三振に切ったカッターは素晴らしかった。しかし回またぎの続投で狙った二匹目のどじょうはいなかった。右打者にはよく効くカッターも左打者には苦しいか。サヨナラ負けにあい、9回の快投を悪夢が消してしまう。

 加治屋はこの日2軍から緊急招集された「代替選手」だった。泣きっ面に蜂か。黒星地獄のぬかるみのなか、コロナ禍に襲われた。先発予告されていた伊藤将司や藤浪晋太郎、江越大賀が陽性判定を受け戦列を離れた。

 <野球にはどんなことも起こりうるが、最も突拍子もないアクシデントは最も弱いチームに起こるのが、ほとんど原則といってもいい>とロジャー・エンジェルは『憧れの大リーガーたち』(集英社文庫)で書いていた。長く阪神低迷期を取材してきた身としても、よくわかる。

 それでも、中継ぎ登板から中3日の緊急先発となった小川一平はよく投げた。ショートスターターの期待以上、5回2死まで無失点だった。救援陣もよく踏ん張った。

 問題が打線なのは論をまたない。この4試合で得点は佐藤輝明のソロ2本だけ。この夜は1、2番の3安打1四球以外、誰も出塁できなかった。凡退を繰り返す光景は消化試合のように映る。
 むろん監督も選手も必死だろう。先のエンジェルは、野球選手は<考え深く内省的>と書いた。<考え抜いていても毎日の試合ごとに予期しないことが起こる。それほど厳しい環境なのだ>と同情を寄せている。

 これで1勝14敗1分け。同様に開幕から黒星地獄にあえいだ1979年の西武でも1勝13敗2分けだった。当時監督の根本陸夫は開幕12連敗の後「打開策はない。積み重ねでいい結果を出していくしかない」と話した。

 根本が広島監督で「若親分」と呼ばれた72年、名古屋の定宿「美そ乃(みその)旅館」に寄せた色紙を持っている。従業員の女性から譲られた。「現在を尽くさずして、未来への到達はあり得ない」とある。土台作りの後、西武やダイエー(現ソフトバンク)の黄金期を築いた根本だから示唆に富む。今の阪神も「未来」をみて「現在」を懸命に戦うしかないのである。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年4月14日のニュース