NPB審判員・白井一行氏の一日 肩を慣らすようにキャンプで目を慣らす「感覚を回復させる時間」

[ 2022年2月26日 05:30 ]

ブルペンでジャッジする白井審判員
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 3月25日のシーズン開幕に向けて、選手だけでなくNPB審判員もキャンプで腕を磨いている。ソフトバンクの宮崎キャンプに同行して汗を流していた一人が、白井一行審判員(44)。11~16年にNPB審判員を務めた本紙・柳内遼平記者(31)が、白井審判員の一日を通して、プロ野球でジャッジするための準備を紹介する。

 日の出前の午前6時半ごろ、宮崎市の中心街にあるホテルから1台の自転車が発進した。白井審判員が白い息を吐きながらペダルをこぐ。約1時間半も行う日課のサイクリングは、長丁場のプロ野球のシーズンを駆け抜けるための体力づくりの一環である。「日本シリーズに出ることが毎年変わらない目標」と大舞台に選ばれるための努力を欠かさない。

 日が昇り気温も上がり始めるころ、ソフトバンクがキャンプを行う生目の杜運動公園に到着する。まだ選手やファンの姿はない。他の審判員とともにブラックコーヒーで体の中から温め、芝生の多目的グラウンドに向かう。一列に並ぶと「セーフ!」「アウト!」「ストライク!」と動作をつけながら発声練習。指導を担う平林岳スーパーバイザー(55)が目を光らせる中、新人もベテランも基本動作を繰り返した。

 テレビに映る審判員の仕事は、ここから。ブルペンにソフトバンクのエース・千賀が登場すると、相棒・甲斐の後方に白井審判員が構えた。投本間の18・44メートルを切り裂く白球を見極める。高い音を立てて甲斐のミットに吸い込まれると「ストライク!」の声が響いた。

 12球団のキャンプに同行する審判員は1日に約250球以上の投球を判定する。多くの投手が投げ込んだ1時間半のブルペン投球を終えると、白井審判員は汗だく。キャンプの期間を「感覚を回復させる時間であり、新しいことに挑戦するための期間でもあります」と位置付けている。

 ブルペンやグラウンドでは藤本監督やコーチ陣と柔和な表情でコミュニケーションを取っているが、いざシーズンが始まると表情は一変する。記録として公表されることはないが、白井審判員の退場宣告数は現役審判員の中で最多とされ「たくさん退場を出しているから、もう何人か分からない」と語るほどだ。

 退場宣告は、ファンやメディアから批判の標的になりがちな「泥仕事」。それでも、毅然(きぜん)とした姿勢で、日本ハム・栗山監督、DeNA・中畑監督(いずれも当時)らを「退場!」とコールしてきた。「退場させることも通常の判定と同じ一つの仕事。退場に値する行為をした時の対応は相手チームも見ている」と信条がぶれることはない。

 シート打撃や投内連係など判定が絡むメニューを終えると、6人一組のクルー全員で野球規則の座学に励む。頭も体も野球漬け。シーズン開幕後は毎日、プレッシャーとの戦いにもなるが「一番近くで最高のプレーを見ることができる。“千賀のフォーク、佐々木朗(ロッテ)の真っすぐは凄いなあ”と楽しむことで気持ちも楽になる」と笑う。全審判員53人のうち7人だけが出場できる日本シリーズを目指し、一球一球を積み重ねていく。(柳内 遼平)

 ◇白井 一行(しらい・かずゆき)1977年(昭52)10月3日生まれ、兵庫県明石市出身の44歳。小1で野球を始める。明石高では甲子園出場なし。甲賀総合科学専門学校を経て、97年にパ・リーグ審判部に入局。00年のオリックス―ロッテ18回戦(倉敷)で三塁塁審として1軍初出場。これまで球宴には2回、日本シリーズには4回出場している。オフの趣味はNMB48の追っかけ。1メートル77、80キロ。

 《ギータもまねる!球界一目立つ「ビッグボイス」》白井審判員はビッグボスならぬ「ビッグボイス」でも知られる。声量は審判界No・1。しかも高音で「ストラ~イク!」と絶叫するコールは、ネット上で「アアアアイイイッッッ!」と表記される。「亡くなった天国の娘へ届けるために大きな声を出している」という都市伝説を、本人は「娘も息子も元気です」と一蹴。今キャンプでは柳田がブルペンでコールのまねを披露する一幕もあった。

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2022年2月26日のニュース