【解説】阪神・矢野監督の電撃退任表明 裏にあるのは「オレがいなくても大丈夫」の確信ではないか

[ 2022年2月1日 07:00 ]

昨季シーズン最終戦で、ファンにあいさつする矢野燿大監督(中央)

 退任の一報が舞い込んできた時は、わが耳を疑った。なぜ、キャンプインの前日に?驚きとともに受け止めた退任表明。さまざまなことを思い返していくうちに“矢野監督らしいな”とも思った。

 チームづくりを進めていく上で大切にしていたのは、選手たちの自主性だった。「超積極性」を掲げ、失敗を恐れない姿勢を植え付けた根底には、その考えがある。「オレがいなくなっても自然とできるようになるのが、本当の意味でチームの伝統になる」という言葉を聞いたことがある。あえてキャンプイン前日に自らの口からナインに伝えることで、もうワンランク上の自主性を引き出し、成長を促す狙いがあるのだと思う。

 退任を決断したのは、チームの成熟があったからこそだろう。18年オフの監督就任以来、勝つこと以上に追い求めてきたのが、野球少年やファンに感動を与えられるチームをつくり上げていくことだった。どんな時でも全力疾走を怠らず、最後の最後まで試合を諦めない。レギュラーだけではなく、選手全員で一丸となって戦う姿を理想とした。

 ヤクルトと優勝を争った昨季は勝率差で2位。その結果以上に自身の考えが浸透したチームの姿に手応えを感じたのでないだろうか。会見で明かした「本当に良いチームになってきている」というのは、偽らざる本音に違いない。

 「さあ、これから」というタイミングでの発表は賛否両論があるだろう。ただ、既に昨秋の時点で球団幹部には決意を伝えた。仮に厳しく情報統制したところで漏えいや、意図せぬ形で報道されることがある。退任が表面化した中でシーズンを戦うことはマイナスに作用する可能性もある。それら想定される全ての事態を予想した上で、「オレがいなくても、もう大丈夫」という確信があるのではないか。加えて、指導者として伝えられることが少なくなってきた中で、自分自身を奮い立たせる意味もあるのだろう。

 目指すべき伝統は芽生えつつあるが、まだ完成ではない。2軍を含めると5年間に及ぶ監督生活の集大成として、一日一日に全力を尽くす姿を見たい。(03~15年阪神担当。野球デスク・森田尚忠)

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