【内田雅也の追球】コーチが忙しく、主役となるキャンプが成功を呼ぶ

[ 2022年1月22日 08:00 ]

阪神・藤本定義監督(右)と右腕となった青田昇コーチ(1962年当時)

 キャンプインを前にした1月のコーチ会議は恒例の大切な行事である。今年の阪神は21日、スタッフ会議を開いた。

 1962(昭和37)、64年とリーグ優勝に導いた監督・藤本定義は毎年この会議で「指導方針」を言い渡した。神戸の自宅から大量に見つかった資料を基に、昨年12月に連載した『名将・藤本定義の研究』で書いた。

 必ず記されていたのは<キャンプでは監督、コーチは忙しく動き回ること>という項目だ。次いで訓示を並べている。

 <コーチは情熱を持って仕事にあたらねばならない>。毎日、各選手に練習目的を持たせ、長所を伸ばし<選手に常に希望、意欲を持たせよ>。

 <コーチは勉強、努力しなくてはならない><コーチは時の流れを知らねばならない>。自身の経験だけで指導していては時代に乗り遅れる。

 <コーチは批判してはならない><選手に皮肉、駄じゃれを言う者は必ず失敗する>ともある。

 何しろ、藤本自身が研究熱心であった。<大リーグのキャンプではコーチが最も忙しい>とある。親交の深い大リーグ通の歯科医、今里純が翻訳した英文資料も残る。

 藤本が巨人監督時代に入団した川上哲治は、後に大打者となり、戦後51年春、3Aサンフランシスコ・シールズのモデスト(カリフォルニア州)のキャンプに招待参加した。阪神・藤村富美男、中日・杉下茂、松竹・小鶴誠と4人だった。このキャンプで<野球チームのあり方を学んだ>と『私の履歴書――プロ野球伝説の名将』(日経ビジネス人文庫)にある。

 <驚いたことは、縦の命令系統がすっきりしていることだった。監督―コーチ―選手という一本の筋が実にはっきりしている>。<コーチは監督の手足同然>に見えた。

 後に監督となり、V9の偉業を成し遂げる組織論の原点である。

 藤本や川上のやり方は今にも通じる。ただし、矢野燿大が監督を務める今の阪神は少し様相が違う。監督を中心にコーチ陣は何でも意見を言い合う。この日の会議でも妙案が出たことだろう。

 そんな<関係性が空気をつくる><チームづくりは空気づくり>だと、メンタルトレーナー・大嶋啓介が矢野とともに著した『昨日の自分に負けない美学』(フォレスト出版)に書いている。

 コーチが忙しく、主役となるキャンプが成功を呼ぶのは古今東西、変わらない。 =敬称略= (編集委員)

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