【内田雅也の追球】野球の美点詰まった日本一 屋外、天然芝……「野球」らしい激闘

[ 2021年11月28日 08:00 ]

SMBC日本シリーズ2021第6戦   オリックス1ー2ヤクルト ( 2021年11月27日    ほっともっと神戸 )

<日本シリーズ オ・ヤ(6)>5回無死一塁、宮本(手前)の送りバントを転びながら一塁へ送球するオリックス・山本(撮影・成瀬 徹)
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 深夜11時を過ぎての胴上げを終え、ヤクルトの選手たちは泣いていた。MVPの中村悠平、代打決勝打の川端慎吾、主将の山田哲人、主砲の村上宗隆……皆が涙を光らせていた。

 美しい涙である。野球の良さ、美点が見えた光景だった。

 それは何か。野球記者だったポール・ギャリコの短編『聖バンビーノ』=『ゴールデン・ピープル』(王国社)所収=にある。戦争で父親を失った少年の枕元に、あの世にいるはずの「球聖」ベーブ・ルースが現れる。「バンビーノ」はルースのニックネームだ。

 少年に「野球をする男になるんだ」と説く。「それは、ありとあらゆるものを必要とする。体調、協調、スピード、科学、ノウハウ、闘志、それから根性。根性がないと、野球はできない」
 日本一となったヤクルトは必要な要素をそろえていた。特に全員野球での協調、協同である。

 ベースボールを野球と訳したのは旧制一高(今の東大教養学部)の中馬庚(ちゅうまん・かなえ)である。1894(明治27)年秋だった。寄宿舎で素振りしていた後輩の青井鉞男(えつお)に中馬が息を切らせて駆け寄った。「青井、よい訳を見つけたぞ。Ball in the field――野球はどうだ」

 君島一郎『日本野球創世記』(ベースボール・マガジン社)に出てくる逸話だ。1872(明治5)年に伝来したベースボールはそれまで「ベース」と縮めて言ったり、直訳の「塁球」、見た目から「打球鬼ごっこ」といった訳語も見られたが定着しなかった。
 中馬が叫んだ「野の球」は自然のなかで遊ぶ本来の雰囲気がよく出ていた。緑美しい神戸は野球場にふさわしい。屋外で内野も天然芝。屋根付きドームの人工芝とは違い、自然の影響を受けた。

 決勝点は延長規定最終回となる12回表、2死からだった。左前打で出た塩見泰隆が打者・川端の2ボール2ストライク後、捕逸で二塁に進んだ。

 これが今シリーズ6試合目にして両チーム初のバッテリーエラー(暴投・捕逸)だった。盗塁も両軍ゼロ。それほどバッテリーが堅かったのだ。この捕逸もスライダーが土で微妙にバウンドが変わったのだろう。

 寒さもある。気温7度、延長に入ると6度。冷たい風で体感温度はさらに低かったことだろう。

 5回表裏に奪い合った得点には、この自然という「野球」の特徴が出ていた。

 表のヤクルト。無死一塁で投前バントを処理した山本由伸は芝に足を滑らせた。転んでいなければ二塁封殺できていた。これで塩見の左前打が適時打になった。三遊間をゴロで抜けたが、天然芝で打球が弱まり、吉田正尚の打球到達が遅れたのだった。

 その裏のオリックス。1死から若月健矢の二ゴロ内野安打も土の上で不規則に跳ね、山田の体勢が崩れたのが原因だった。2死後、福田周平の一打は左前に風に揺られるように落ち、適時打となって追いついた。

 実に「野球」らしい攻防だった。

 敗れたオリックスも同じく全員野球を掲げていた。志願の続投で9回1失点、プロ入り最多141球を投げた山本には場内の誰もが心を熱くした。打撃陣はその熱投に報いようと奮起していた。6試合中5試合が1点差という接戦際立つシリーズで、力量差はさほどもないだろう。美しい敗者としてたたえたい。

 そして、ともに前年最下位から優勝して臨んだ決戦だった。コロナ下、絶望から希望を見る人びとに勇気を与える激闘だった。シリーズ開幕前に当欄で書いたように、野球はやはり、時代を映していた。 =敬称略= (編集委員)

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