【内田雅也の追球】近本よ「得点王」を狙え! 初回先頭弾に先頭出塁で生還 優勝へ、カギ握る1番打者

[ 2021年8月16日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3-0広島 ( 2021年8月15日    京セラD )

<神・広>初回無死、右越えに先頭打者本塁打を放ち、ナインに迎えられる近本(5番)(撮影・坂田 高浩)
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 野球を愛した俳人、正岡子規の『筆まかせ』には1890(明治23)年3月21日、「上野公園博物館横空き地」で行った試合の詳細を報告している。独自のスコアカードが記されているのだが、安打や三振などは読み取れない。何となく分かるのは○印で、各打者が得点したことを示しているようだ。

 本来が得点を争う競技である。最も重要な記録は得点だと言える。だから、子規は目立つように○印を付けていたのだ。今のスコア記録にも通じているではないか。

 その得点がどうも軽んじられている。首位打者や本塁打王と同様、プロ野球の表彰に「得点王」を加えるべきと主張していたのは誰だったか。1980年代に読んだ気がする。得点王ではサッカーのようだが、確かに、野球でも最多得点打者としてたたえられていい。

 阪神・近本光司はこの夜、2得点を加え、58得点となった。セ・リーグの得点王争いで山田哲人(ヤクルト)と並んで首位を行く。

 1回裏に初回先頭打者本塁打を放って先制の本塁を踏んだ。3回裏は先頭打者として中前打で出塁し、ジェリー・サンズの中前打で生還した。試合の流れを引き込む働きで、勝利に貢献した。

 近本に得点王を獲れ、と言いたい。聞けば、本人も1番打者として得点の数は意識しているらしい。ならばなおさらだ。

 近年の得点王をみれば、昨年はDeNAの1番打者・梶谷隆幸(現巨人)だったが、2019年・鈴木誠也(広島)、18年・山田、17年・丸佳浩(広島=現巨人)と3、4番で本塁打も打てる打者が獲得している。

 本塁打は少なくとも、1番打者として塁上を駆け回っての得点王を目指してほしい。四球が19個(リーグ28位)と少なく、出塁率・332(同17位)と低い。近本は“打って出る”タイプなのだ。

 もちろん、待球や選球、ファウルでの粘りも必要だろうが、彼自身の良さを消してしまっては元も子もなくなる。打ち気を前面に出し、3ボール1ストライクから右翼席にたたき込んだ、この夜の先頭弾のようにいきたい。

 今季は――いや、昨季も思えば、今季“も”か――開幕当初は打撃不振で、22打数1安打(打率・045)のスタートだった。4月終了時の打率・222が、今や・297と3割に手が届くところまできた。

 安打数も目下105本(同2位)で最多安打を狙える。得点王とあわせて獲れば、おのずとチームの勝利、そして優勝につながる。

 献身的で内省的な近本のことだ。個人成績を論じるのは好まないかもしれない。だが、これはチームの勝利に直結する話である。しかも優勝がかかっている。ここは欲を出していきたい。

 そう言えば、野球ほど愉快なものはないと書いていた子規は、左投げの捕手で、打順は1番だった。ダイヤモンドを駆け回り、野球に夢を見る青年だった。 =敬称略= (編集委員)

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