【内田雅也の追球】ツーシームの細工 3回から変身、別人となった阪神・青柳の修正力

[ 2021年6月12日 08:00 ]

交流戦   阪神3ー2楽天 ( 2021年6月11日    楽天生命パーク )

<楽・神>8回2失点と力投した阪神・青柳(撮影・大森 寛明)
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 阪神・青柳晃洋は3回から変わった。序盤2回までに2失点、打者2巡目を迎えるにあたって、投球を変えたのだ。

 特に投球の軸となるツーシームの球速を抑え気味にし、シュートの変化量を増やしていた。低めへの制球を重視した結果かもしれない。配球面ではシンカーの割合を少し増やし、走者なしでもセットポジションで長くボールを持ち、クイック投法を使うなど工夫を凝らした。

 これらは本人に確かめたわけでなく、野球記者としての推察である。以下にその理由を書いてみたい。

 2回まで、楽天打者にツーシームに対応されていたからだろう。1回の右飛、2回の左飛2本はいずれもツーシームを外野まで持っていかれた。高めに浮いたわけではない。低めに沈むツーシームを狙われていた。

 青柳はゴロを打たせる投手である。共同通信データシステム『TSUBASA』によると、12球団の投手でゴロ率が藤浪晋太郎の61%に次ぐ60%(10日現在=投球数500球以上)という「ゴロ投手」が2回までゴロアウトは1個だけだった。

 狙われているツーシームを“やや遅く”“より変化”するように細工したのだ。

 2回までツーシームを21球投げ、140キロを超えたのが11球(約52%)あった。3~8回は38球と割合が減り、140キロ以上は5球だけ(約13%)だった。多くは135~138キロと3~5キロ球速は落ちるが、低めへの制球と、よりシュートする球筋でゴロを打たせたのだ。打者には同じツーシームに見えていたかもしれない。

 3回以降、楽天の打者はは凡ゴロを打ち、首をかしげていた。

 たとえば、3番・浅村栄斗は5回、沈むツーシームに先で打ってバットが折れ、二ゴロ。8回は食い込まれるのを嫌ってか、本塁から相当離れて打席に立っていた。それでもツーシームを連投し三ゴロに仕留めている。

 アウトの内訳を2回までと3回以降で比べてみる。※ゴロアウト=GO、フライアウト=AO、三振=SO

 回  GO AO SO

1~2  1 3 2

3~8  11 4 3

 ゴロアウトが格段に増えている。3回以降のフライアウト4本のうち3本はシンカーで、ツーシームは6回の島内宏明遊飛だけ。「ゴロ投手」の本領を取り戻していた。

 青柳と同じアンダースローだった――青柳本人は下手と横手の中間で「クォータースロー」と自称している――杉浦忠が本紙評論家だった当時、聞いた話を思い出す。若い読者のため説明しておくと、杉浦は「史上最強のアンダースロー」と呼ばれた南海(現ソフトバンク)のエースだった。1959(昭和34)年には38勝4敗で最多勝、最優秀防御率、最高勝率、最多奪三振とタイトルを総なめ、巨人との日本シリーズで4連投4連勝を果たしている。

 杉浦は言った。「ホームベースの幅やバッテリー間の距離は決まっている。しかし、球速を操れば、その変化は無限だ」

 大リーグの左腕で史上最多の通算363勝をあげたウォーレン・スパーン(ブレーブスなど)の名言を思う。「バッティングとはタイミングだ。ピッチングとはタイミングを狂わせることだ」

 青柳はこの仙台の夜、そんな投球の極意に少しでも触れたのかもしれない。同じツーシームでも実は変身していたわけで、試合中、修正する力に恐れ入った。 =敬称略= (編集委員)

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