【内田雅也の追球】左打者キラーを左打者が攻略 阪神が見せた「ビキニ」に隠れた部分

[ 2021年5月27日 08:00 ]

交流戦   阪神3-2ロッテ ( 2021年5月26日    甲子園 )

<神・ロ(2)> 3回1死二塁、近本は左中間に先制の適時二塁打を放つ(投手・岩下)(撮影・大森 寛明)
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 交流戦ではふだん対戦しないパ・リーグの投手とあたる。未知の相手にどう対処するか。事前の準備が問われる。

 野球記者も同じで、見知らぬ対戦相手を書くのは難しい。阪神を追う当欄も見知らぬ相手をどう見て、どう書くか。準備や見方が問われている気がする。

 ロッテ先発の岩下大輝は今季チーム最多4勝をあげている右腕だ。速球は150キロを超え、フォークがよく落ちる。

 阪神との対戦は過去1度。一昨年6月5日の千葉(ZOZOマリン)で、5回6安打3失点で勝利投手になっている。監督・矢野燿大の1年目だったが、さほど印象には残っていない。

 今季の成績で特徴的なのは左打者をよく抑えていることだ。試合前までの被打率は対右打者・259(54打数―14安打)に対左打者は・118(85―10)だった。

 球種・コース別成績を共同通信データサービス『TSUBASA』でみると、左打者の結果球はスライダー、カーブは4球しかない(4打数無安打)。多くは外角直球と低めフォークだった。

 岩下攻略にはやはり右打者が打つか、左打者ならば岩下の外角速球と低めフォークへの対応が焦点だとみていた。

 果たして、阪神打線は左打者が岩下を打った。3回裏1死二塁で近本光司が外角速球を左中間二塁打して先制。中野拓夢は低めフォークを拾って左犠飛を上げた。5回裏は小幡竜平が真ん中低め速球を二塁強襲安打し、2死二塁から中野がまたも低めフォークを右翼線に落とす二塁打にした。

 近本は初球で右足を踏み込み、外角速球に振り負けなかった。中野は犠飛も二塁打も追い込まれながらフォークに対応していた。

 近本の打った外角速球は過去7打数1安打、中野の低めフォークは6打数0安打だった。低めにいった岩下のフォークを安打にしたのは、中野が今季初めてだった。

 5回降板に追い込んだ岩下から放った4安打はすべて左打者。残る1本は佐藤輝明が内角スライダーを詰まりながら右前打したものだ。ここにヒントがあるようだ。

 つまり、阪神の左打者は詰まることを恐れず、踏み込んでいた。だから外角速球にも、低めフォークにも対応できたのだろう。

 「スタッツ(統計)はビキニを着た女性のようだ」と大リーグ・レンジャーズで監督も務めたトビー・ハラーが語っている。「多くを見せてくれるが、すべてではない」

 阪神の左打者はビキニに隠れていた部分も見せたわけだ。皆既月食の夜だった。雲に隠れていた赤い月の魔力だろうか。いや、スコアラーやコーチ陣の分析を含めた事前準備のたまものだったと記しておきたい。 =敬称略= (編集委員) 

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2021年5月27日のニュース