【内田雅也の追球】「空振り」にみるセ・パの違い 阪神の先発投手攻略と逆転決勝被弾

[ 2021年5月26日 08:00 ]

交流戦   阪神3ー5ロッテ ( 2021年5月25日    甲子園 )

<神・ロ(1)>初回2死、阪神・マルテは四球を選ぶ。投手二木(撮影・北條 貴史)
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 阪神はロッテのレオニス・マーティンに浴びた逆転2ランで敗れた。1点リードの8回表、必勝継投のセットアッパー、岩崎優が無死一塁で迎えたのが、このパ・リーグ本塁打数トップ、強打の左打者。2番だが小細工などない。追い込みながらスライダーを右翼ポール際中段まで運ばれた。

 マーティンが語った「スライダーを待っていた」との談話はにわかに信じがたい。2ストライク後なら通常、速い球を待ち、変化球には対応する姿勢なのだが、どうだろうか。読んで打たれたのなら、コースの甘いことなど別の話となる。この点はさておく。

 マーティンは前の打席で喫した三振が今季53個目だった。試合数を上回る三振数はパ・リーグで2番目に多い。粗さの一方にある一発の怖さを思い知ったことになる。

 強打者を2番に置く打線は大リーグの影響を受けた近年の流行だ。「フライボール革命」で本塁打数同様に三振数も年々増えている。一発か三振かの傾向が強まる。

 日本でも特にパ・リーグでその傾向が強まっている。乱暴な書き方だが、セは繊細でパは豪快だ。新型コロナウイルスの影響で2年ぶり開催となったセ・パ交流戦の初日。その一端が見えた。

 空振りの数を比較してみる。ロッテが5回を除き毎回の17個だった。マーティンも本塁打の打席を含め、3個ある。対して阪神は8、9回だけの4個。7回までは1つの空振りもなかった。

 このコンタクト率の高さは阪神打線の持ち味でもある。今季はやや増えたが、それでもチーム三振数は目下セ・リーグで2番目に少ない。選球眼と粘りに優れている。

 先発の二木康太の攻略につながっている。共同通信データシステム『TSUBASA』によると、今季、二木の「奪空振率」は8・9%=数値は24日現在=。通常だと、5・5個の空振りがある計算になる。特に得意のフォーク奪空振率は15・3%と高かった。

 ところが、阪神の各打者はフォークや変化球に対し、低めボール球は見極め、ファウルで粘った。1回裏のジェフリー・マルテは6球、2回裏の梅野隆太郎は実に12球を投げさせた。

 この対応は2巡目で実った。ストライクを欲しがった変化球をマルテとジェリー・サンズが本塁打で仕留めた。長所は出していた。

 敗因を岩崎の被弾に求めるのはたやすいが、残念だったのはは2、3番手投手から追加点を奪えず、流れを失ったことだろう。5~7回、淡泊に映った攻撃が悔やまれる。

 プロウト(プロの素人)のお股ニキは『セイバーメトリクスの落とし穴』(光文社新書)で、名著『マネー・ボール』(ランダムハウス講談社)にある「三振を恐れるな、しかし三振するな」という言葉を引用し<これが実に本質を突いている>と書いた。

 <三振を恐れてコツコツと当てにいく打撃だけでは、投手は恐怖を感じないし、野手は前に出やすいのでヒットコースも狭まってしまう。四球を選ぼうとしてボールを見すぎると、ストライクを投げられて追い込まれる。一方で本当に三振すれば、ほぼ確実にアウトとなってしまう。野球というスポーツはこのように、相反する要素の両立が多くの場面で必要とされる>。

 つまり、ロッテ的な空振りを恐れぬ豪快さと阪神的な粘り強い繊細さをあわせ持てば最強なのだろう。 =敬称略= (編集委員)

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2021年5月26日のニュース