【内田雅也の追球】走者三塁の「功労」 シーソーゲームで光った阪神「陰のヒーロー」たち

[ 2021年4月26日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神7-5DeNA ( 2021年4月25日    甲子園 )

<神・D(6)> 7回1死二、三塁、二塁走者・糸原は大山の中飛で三塁を陥れ笑顔を見せる(撮影・大森 寛明)
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 同じ得点圏でも走者二塁と三塁では得点できるプレーの「場合の数」が大いに異なる。二塁では適時打(安打)するしかないが、三塁ならば、内野安打、失策、暴投、捕逸、ボーク、本盗……無死か1死なら外飛(犠飛)やスクイズ(犠打)とさらに広がる。

 阪神はこの走者を三塁に進める攻撃が効いて、逆転逆転また逆転のシーソーゲームを制した。

 4―5の7回裏、安打と四球の無死一、二塁から陽川尚将が決めた送りバントで1死二、三塁と進めた。一発で三塁前に転がしたのは「方向さえ間違わなければ送れる」という春季キャンプ臨時コーチ・川相昌弘の教え通りだ。負傷のジェフリー・マルテに代わり、4回表の守りから入った3番打者の犠打は効いた。

 続く4番・大山悠輔の飛球は中堅定位置より前と浅かったが、三塁走者の近本光司が俊足で同点の生還を果たしたのだ。走者三塁だからこそ、中飛が犠飛となったのだ。

 この時、二塁走者・糸原健斗が本塁送球間に三塁を奪う好走塁があった。この三進で2死三塁をつくったのが大きい。

 相手バッテリーは暴投を恐れ、低め変化球が投げづらくなった。ジェリー・サンズは2球目直球を中越えへ勝ち越し決勝2ランを運んだのだ。

 実は、この前に走者三塁の有効性を示す得点があった。2―3の5回裏1死三塁から暴投で同点を得ていた。DeNA先発・阪口皓亮のフォークがワンバウンドとなり、捕手・高城俊人が止めきれなかったのだ。

 この時も無死二塁で外角球を懸命に引っ張って二ゴロ進塁打とした近本の打撃が効いていた。

 勝利監督インタビューで矢野燿大が「陰の功労者」として「近本が浅いフライで還り、陽川がしっかり送った。流れのなかで大きなプレー」とたたえた。走者三塁での、または走者三塁にした功労である。

 それは、冒頭に書いた「場合の数」だけではない。鳥越規央、データスタジアム野球事業部の『勝てる野球の統計学』(岩波書店)に10年間(2004~13年)のプロ野球での状況別得点確率がある。少し古いが、確率は今もさほど変わっていないだろう。

 この日、走者を三塁に進めた状況での得点確率の変化を記しておきたい。

 ▽無死二塁58・9%→1死三塁62・9%(+4・0ポイント)
 ▽無死一、二塁60・4%→1死二、三塁65・2%(+4・8ポイント)
 ▽2死二塁21・1%→2死三塁26・5%(+5・4ポイント)

 いずれも走者三塁の有効性が見える。さらに、守る側にかかる重圧や、サンズがお立ち台で語った「みんながつないでくれた」というチーム一丸の思い、精神的要素も加わっている。=敬称略=(編集委員)

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