【内田雅也の追球】助け合い、そして救われた――いくつもミスが出た阪神の開幕戦勝利

[ 2021年3月27日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4ー3ヤクルト ( 2021年3月26日    神宮球場 )

5回2失点の力投を見せた阪神・藤浪(撮影・大森 寛明)
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 開幕戦の緊張か、花冷えナイターの寒さか。阪神内野陣の動きは硬く、ミスが相次いだ。大山悠輔はゴロを弾き、木浪聖也は悪送球、糸原健斗が内野安打にした打球も本調子ならアウトにできたろうし、併殺を取れていた打球もあった。

 2008年北京五輪日本代表で主将を務めた宮本慎也(ヤクルト)の言葉を思い出す。「失敗を恐れずいこう。誰かが失敗すれば誰かが助けよう」。トッププロの集団でも大一番を前に相当な緊張があったのを知った。

 阪神は3年連続リーグ最多失策で、キャンプから守備の強化を課題に取り組んできた。残念な内容だが、緊張を割り引いてみておきたい。

 それでも初の開幕投手を務めた藤浪晋太郎は粘った。5回まで5安打、5四球、2失策と12人の走者を背追いながら、2失点で踏ん張った。

 「勝てる投球」をテーマとする藤浪は「味方がミスした後、味方が点を取ってくれた後を踏ん張りたい」と話していた。口にした言葉通りの投球で、有言実行だとたたえたい。

 昨年のチーム防御率は阪神3・35、優勝した巨人3・34だった。自責点は阪神393、巨人394と変わらない。ところが失点は阪神460に対し巨人421と39点差ある。阪神は失策絡みの「非自責点」が67点もあった。

 その点、藤浪の2失点はともに自責点で、失策絡みの失点は防いでいた。

 ミスした後を投手が踏ん張れば、野手は奮起する。1973(昭和48)年の「世紀の落球」を思う。阪神、巨人がともに最終戦で優勝をかけた一戦を戦った年だ。阪神が敗れたため、オフに話題となった。

 8月5日の甲子園。池田純一が9回表、中飛に転倒して逆転負けとなった。投げていた江夏豊は著書『エースの資格』(PHP新書)で<どうこうと思うところは一切なかった>。そして<守りを気にしてもしんどいだけ><エラーを巡る思い出がないような間柄では寂しい>と、投手と野手の関係のあり方を記している。

 だが、この後の池田の活躍はすさまじかった。直後の中日3連戦で3安打、2安打、同点二塁打。8月25日のサヨナラ2ラン、9月9日のサヨナラ3ランで、ともに完投の江夏に白星を贈った。当時の本紙に「僕にはまだ借りがある。気合入れてやります」と奮起した池田の談話がある。

 この夜、守りでミスした糸原、大山が6回表にそろって二塁打して勝ち越し、この時点で藤浪に勝利投手の権利を贈った。藤浪はベンチでこぶしを掲げていた。

 後に新人の石井大智が同点とされ、藤浪の勝利投手は消えた。石井大は降板直後のベンチで赤い目をしていた。

 それでも最後は何とか勝ちきった。チームの勝利は個人のミスを救ってくれる。ミスをした者たちも、また奮起する源となることだろう。=敬称略=(編集委員)

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2021年3月27日のニュース