【内田雅也の追球】写真が語る、野球少年のような阪神 たっぷり水を飲み、はつらつと開幕へ

[ 2021年3月22日 08:00 ]

オープン戦   阪神1ー1オリックス ( 2021年3月21日    京セラD )

<オ・神>7回表終了後、守備位置に勢いよく駆け出す大山(右)と中野(撮影・坂田 高浩)
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 写真は雄弁だ。時に言葉以上に物を言う。

 本紙カメラマンが撮った写真のなかに、ベンチから守備位置まで駆けだす阪神の選手たちがうつっている。笑顔を浮かべながら、疾走している。

 何とはつらつとしていることか。野球が本来持つ明るさや楽しさが伝わってくる。センバツ開催中の高校球児、いや野球少年のようではないか。

 この春の選手たちは例年以上に一塁まで、または攻守交代の疾走が伸びやかだと感じていた。全力疾走なんて……と冷笑する者はいない。

 その背景にあるものは何か。力が付き、十分にペナントレースを戦えるという自信がある。自分たちがやってきた練習や姿勢は間違っていないという自負や誇りがある。

 先に野球少年のようだと書いたが、究極のプロは少年に戻るのではないだろうか。

 戦後、「青バット」で球界を代表するホームラン打者だった大下弘(セネタース・東急―西鉄)は日記『球界徒然草』で<「大人になると子供と遊ぶのが馬鹿らしくなる」と人は云うかもしれないが、私はそうは思はない。(中略)子供の世界に立入って、自分も童心にかへり夢の続きを見たい>と書いた。

 イチローは「子どものころのように野球がしたい、少しでもうまくなりたいという思いをキープすることができたら、向上し続けることができます」と語っている。

 ウィリー・メイズは球場入りの前、路地で見かけた少年たちにまぎれて草野球に興じていた。

 監督・矢野燿大の願いに「少年野球を変えたい」があると聞いた。

 今も残る軍隊調や横柄な大人の指導者の影響で、野球をする子どもたちがはつらつさをなくしている。実はつい最近、いま開催中の選抜高校野球に出場している、あるチームの練習を散歩中に見かけた。監督は罵声ばかりを発し、ノックでミスした選手はグラウンドをダッシュで一周する罰走を命じられていた。

 野球は本当は楽しい、その手本にタイガースがなれるのではないか。

 最終のオープン戦。もちろん、試合も上々だった。失策で失点はあったが、締まった内容での1―1引き分けだった。

 大物新人、佐藤輝明を休ませたのも正しい。11打席連続無安打は恐らく身体的な疲労が原因だろう。

 打撃不振について、落合博満は<根本的な原因は食事や睡眠など基本的なことにある>と『コーチング』(ダイヤモンド社)に書いている。なのに<それ以外のところから原因を探してしまう>と精神的なスランプに陥るという。

 村上春樹の小説『1973年のピンボール』(講談社文庫)に「ゆっくり歩け、そしてたっぷり水を飲め」と、印象的な励ましの言葉がある。

 オープン戦は最高勝率で終えた。「優勝」と浮かれるはずもなく、しかし自信は持ちたい。矢野がいう「予祝」の「優勝」に通じているかもしれない。

 開幕まであと6日。猛虎たちは、よく食べ、よく寝て過ごせばいい。そしてまた、はつらつとしてグラウンドに駆けだそうではないか。=敬称略=(編集委員)

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2021年3月22日のニュース