【内田雅也の追球】「転生」への希望

[ 2021年3月2日 08:00 ]

阪神キャンプ地・宜野座村野球場にも墓がある。後方は宜野座ドーム
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 沖縄の墓は独特の形をしている。家のように屋根があり、遺骨の収納部分が広いのだ。

 亀甲墓は亀の甲羅のようだ。あの形は子宮であり、死後、母親の胎内に戻るとしてかたどったと伝わる。輪廻(りんね)転生である。生まれ変わるわけだ。高校時代、何かで読み、その死生観に感じ入った。

 そんな転生への願いがこもった墓はもちろん、阪神キャンプ地の宜野座村にもある。日課の散歩中にもよく見かける。球場敷地内にもある。

 転生か……。阪神の今キャンプのテーマは新生だったろうか。もしくは再生だったろうか。

 福留孝介、能見篤史、藤川球児……らベテラン勢が多く抜けたチームが若返ったのは確かだ。生まれ変わったようだ、という声も聞いた。それは確かに感じた。阪神は転生していた。

 期待通り、いや期待以上の活躍をした新人・佐藤輝明(近大)が話題の中心になった。しかし、藤浪晋太郎や高山俊ら、中堅と言える選手たちが復活への希望を見せた。木浪聖也や糸原健斗はもう大丈夫だろう。残念だったのは投打の新外国人の未着だが、これは仕方がない。ただ、新生も再生もあったキャンプだったとみている。

 「ネコは九つの命をもつというが、春のキャンプも同じようなものだ」とドジャースの名選手だったスティーブ・ガービーが語っている。「野球選手はキャンプの春が巡って来る度に、新しく生まれ変わるのだ」

 年を越えれば、どんな選手も生まれ変わる。だから、新生も再生も含め「転生」でいいのだ。

 藤浪や高山や他の多くの選手たちも生まれ変わり、阪神は転生したのである。その手応えはフロントも現場も抱いている。それで十分ではないだろうか。この日の打ち上げでも、球団副社長兼本部長・谷本修や監督・矢野燿大の表情も柔らかだった。あの顔には充実感がにじみ出ていた。

 最終日は初夏を思わせる陽気だった。少し歩いただけで汗だくになった。数日前からバッタが道端を飛び交っている。いまの季節、七十二候でいう「草木萠動」(そうもく、めばえ、いずる)のごとく、芽生えもあり、枝張りもあるキャンプだった。いずれ花が咲き、実がなるだろう。それはこの秋だろう。

 つまり、転生への希望を見た日々だった。阪神は生まれ変わったのである。 =敬称略= (編集委員)

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2021年3月2日のニュース