【内田雅也の追球】「8秒静止」のダブル効果 阪神・藤浪、セットポジションでも成長の証

[ 2021年2月22日 08:00 ]

練習試合   阪神4ー3広島(特別ルール) ( 2021年2月21日    宜野座球場 )

<神・広>藤浪のセットポジション(撮影・椎名 航)
Photo By スポニチ

 ボールをセットした阪神・藤浪晋太郎が動かない。1秒、2秒……3秒、4秒……。

 1回表1死、二ゴロ失で一塁に走者・羽月隆太郎を背負っていた。打席の広島・野間峻祥への1ストライクからの2球目を投げる前である。初球、セーフティーバントがファウルとなっていた。機動力を絡めた攻撃を警戒すべき時だと感じていたのだろう。
 5秒、6秒……まだ投げない。無観客の球場内には静けさが広がっていた。

 7秒、8秒……ようやく藤浪の左足が動いた。羽月はスタートを切った。

 藤浪はスライドステップのクイックで投げた。投球の捕手到達タイムは1秒08と速い。

 投球はフォークで野間は空振り。捕手・梅野隆太郎の正確な二塁送球で羽月を刺した。

 広島の作戦はヒットエンドランだったのだろう。藤浪は仕掛けてくると読んで、あえてボールを長く持ったのだ。クイックで投げ、フォークで空振りを奪って、盗塁阻止を完成させたのである。

 それにしても、8秒間とは相当に長い静止時間である。

 2回表にも1死から内野安打で走者一塁を背負った。この時の静止時間を手もとのストップウオッチで計ってみると3秒99、5秒76、4秒69、3秒78、3秒95、1秒64……と総じて長いが、短い時もある。長短織り交ぜていることが分かる。投球リズム、テンポに変化を持たせているのだ。

 走者は投手にボールを長く持たれるとスタートが切りづらくなる。実際、俊足走者の羽月のスタートも遅れていた。

 3回表もまた無死一塁を背負った。今度は速いけん制、さらにけん制偽投、また速いけん制と変化を持たせていた。

 昨年までどちらかと言えば苦手としていた、けん制球も克服している。先に書いた、セットしたボールを長く持つのも簡単ではない。肝心の投球が乱れたりする。これも成長の証である。

 加えて、長い静止時間は走者だけでなく、打者も焦れる。タイミングが取りづらくなる。大リーグ通算363勝のウォーレン・スパーンが語っている。「バッティングとはタイミングだ。ピッチングとはタイミングを狂わせることだ」。走者にも打者にも二重の効果があるわけだ。

 藤浪は今キャンプから走者なしの場面では振りかぶってワインドアップで投げている。その豪快さが評判だが、走者を背負ってのセットポジションでも繊細な技を兼ね備えていた。=敬称略=(編集委員)

続きを表示

2021年2月22日のニュース