あの歓喜をもう一度 元楽天担当記者の思い

[ 2021年2月21日 09:00 ]

2013年11月、日本シリーズ初制覇を果たし、嶋(左)と抱き合って喜ぶ楽天・田中
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 記者席を出た。もうすぐ訪れる歴史的な瞬間。部屋ではなく、肌で直接感じたかった。雨が降っていることも忘れるようなファンの熱気が全身を包む。数メートル先から鬼気迫る声が聞こえた。「田中ぁ!」。星野監督が投手交代を告げていた。ベンチに戻る闘将と入れ替わるように背番号18がグラウンドへ。文字通り、地鳴りのような大歓声だった。2013年11月3日。担当記者として三塁ベンチ脇の通路から目にしたあの日の光景は、一生忘れることはないだろう。

 当時の星野監督が「不思議な力が働いてチームが日本一までいけた」と語っていた13年。主役はレギュラーシーズンを24勝0敗1セーブで終えた田中将だろう。どこかで1敗でもしていたら、優勝はなかったと思う。それぐらいチームにとって田中将の「無傷の連勝」は重要な要素だった。6月まで連勝が続くと「田中が投げる試合は負けられない」という思いが野手陣に生まれ、気づけば首位を快走。8月にはチーム全体に「あれ?優勝できるかも?」という雰囲気が生まれ、夏が終わる頃には「優勝できる!」に変わっていった。

 あの歓喜から8年が経過した。11年3月11日に発生した東日本大震災からちょうど10年目のシーズンでヤンキースをFAとなった田中将が8年ぶりにチームに復帰。コロナ下で無観客であるのが残念だが、今春キャンプでも話題を集めている。シーズンに入って注目すべきポイントは多いが、12年8月から始まり「28」まで伸びているレギュラーシーズンの連勝記録をどこまで更新させるかは多くのファンが注目しているだろう。ナインが田中将の最初の登板から「負けられない」と一丸になれば、それこそ13年の快進撃が再現される。

 楽天の日本一を担当として取材した経験は記者の誇りでもある。3・26のシーズン開幕まで、あと一カ月あまり。完全復興に向けてはまだまだ途上の東北、そして新型コロナウイルスと戦う全ての人たちに向け、明るい話題を発信してほしい。(記者コラム・山田 忠範)

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2021年2月21日のニュース