【内田雅也の追球】「赤い気分」を忘れるために

[ 2021年2月21日 08:00 ]

練習試合   阪神4ー9中日(特別ルール) ( 2021年2月20日    北谷球場 )

<中・神>6回無死、阿部の打球を好捕する木浪(撮影・大森 寛明)
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 朝9時に中日キャンプ地の北谷に着き、周辺を歩いた。海辺のレストラン、オープンテラスで朝食をとる人たちがいる。店内から『ムーン・リバー』が流れていた。映画『ティファニーで朝食を』で主役のオードリー・ヘプバーンが窓辺で歌っていた曲である。

 日課の1万歩をこなして球場に入った。好天のまさに野球日和である。

 阪神の練習試合。スコアブックに赤ペンで★印を付けたのは木浪聖也の好守である。6回裏先頭、阿部寿樹の二塁ベース寄りゴロを横っ跳びで好捕し、一塁で刺した。

 その美しさはスローモーションで今も脳裏に焼き付いている。抜ける、と思った瞬間、グラブが出てきて捕った。掛け値なしの美技だった。

 木浪の守備は確かにうまくなった。昨年、それもシーズン中に目を見張るように向上していった。首脳陣も認め、だからライバルだった北條史也はこのキャンプで一塁や二塁を練習している。競争に勝ち、不動の遊撃手になろうとしている。

 今月4日、球団配信の『虎テレ』のインタビューでヘッドコーチ・井上一樹が第1クールで印象に残った選手を問われ、木浪をあげていた。「昨年シーズン中も朝早くから練習をし、一流になろうとする思いが見える。このキャンプでも意識高く取り組んでいる」

 同日、監督・矢野燿大も第1クールで目立った選手に木浪をあげた。示し合わしたかのようだが、首脳陣は遊撃・木浪を文字通り守備のキーストーン(要石)に置こうとしているのだろう。

 その日は千本ノックが行われ、木浪は小幡竜平と泥にまみれた。井上は「守備向上に、技術だけでなく“これだけやった”という自信を植えつけたい」と提案していた。

 この日の球際の強さが千本ノック効果かどうかは分からない。ただ、木浪は自信にすればいい。

 この日も5回裏に一ゴロ失策から失点、9回裏も遊ゴロ失策からピンチを広げた。守備力向上への道はまだ遠い。

 冒頭の映画。オードリーは「赤い気分になったことある?」というセリフがある。「ブルーな気分は、ただ悲しいという気持ち。赤い気分はわけもなく不安でたまらない気持ち。そんなときはティファニーを見るの。すると日常を忘れられる。不安が消えるのよ」

 野球選手も日々「赤い気分」と闘っている。忘れるには、やはり練習しかない。 =敬称略=
  (編集委員)

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2021年2月21日のニュース