【藤川球児物語(26)】語り継がれる球宴の「予告ストレート」

[ 2020年12月8日 10:00 ]

語り草となった06年オールスターの予告ストレート

 06年の藤川球児はプロ野球を代表する投手としても活躍の場を広げた。シーズン開幕前の3月には監督・王貞治が率いる日本代表の一員として第1回WBCに出場した。

 3月12日にアナハイムで行われた米国との予選第2ラウンドでの真剣勝負は記憶に残る。3―3の9回1死満塁。打席に世界最高レベルの打者を迎えた。ケン・グリフィーJr.を148キロストレートで空振り三振。続くアレックス・ロドリゲスにも直球勝負を挑んだ。カウント1―1から中前にはじきかえされ、サヨナラ負け。バットは折れていた。

 「こんなにうれしいヒットはない。フジカワの球は速かった」の言葉は社交辞令ではなかった。キューバとの決勝戦では出番がなく終わったが、優勝とともに「A・ロッドと同じレベルでできる」という自信が備わった。野球人生の中でも貴重な経験となった。

 この年のオールスターも語り草だ。「公式戦は勝つためのもの。それを忘れたことはない。でもオールスターは別」と今年9月の引退会見でも、球宴は自己表現が許される場と位置づけていたことを明かしていた。自己表現イコール「火の玉」。この場だけは勝敗抜きで行くことを決めていた。

 7月21日、神宮での第1戦は9回に登板しアレックス・カブレラ、小笠原道大を10球連続ストレートで連続空振り三振。マウンドから握りを見せての予告勝負は、球宴名場面の一つとなった。

「マンガみたいな世界があるんだということを、子供たちにも見せたかった。公式戦では失礼なポーズだから、カブレラには帽子を取っておわびしました」

 23日の宮崎での第2戦では8回2死から清原和博との勝負に野球ファンが沸いた。153キロ、151キロで追い込み、152キロファウルの後、高め152キロで空振り三振。「すごい球やった。参りました」と清原が言えば、受けた古田敦也も「別格。プロのもう1ランク上」と評価した。「ストレートという名の魔球」という表現も藤川のためにあった。 =敬称略=

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2020年12月8日のニュース