【内田雅也の追球】個人記録と団体の妙 かつて小林繁が語っていた「阪神と巨人の差」

[ 2020年11月1日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神13―5DeNA ( 2020年10月31日    横浜 )

<D・神22>8回、大山は申告敬遠で一塁に歩く(撮影・大森 寛明)
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 阪神大勝のなか、気になるのは本塁打王を争う大山悠輔の不発と3割を狙う近本光司の5タコだろうか。巨人優勝翌日のいわゆる消化試合。個人成績に目が向く。

 大山は13―3と10点差もあった8回表2死二、三塁で申告敬遠された。阪神ファンからブーイングが起こるなか、焦りを鎮めるようにバットを置き、一塁に向かった。

 大げさに書けば「木鶏」の境地だろうか。もう16試合も本塁打が出ていない大山だが、心を乱さず、残り7試合に挑んで欲しい。

 近本は8球粘った打席が2度、9球も1度あったが安打は出なかった。打率は2割9分3厘に落ちたが、固め打ちができる打者だ。3割はまだまだ射程圏内である。

 ただし、野球は個人成績が必ずしもチーム成績と合致しない競技だ。今季の巨人は3割打者が不在、規定打席到達者3人だけでも優勝した不思議がある。

 「タイガースには優勝できるだけの力はある。個人成績で見たら巨人よりも上なのに優勝できないのはおかしい」と語ったのは小林繁である。

 巨人が「空白の一日」を突いて「怪物」江川卓と契約、大騒動となった「江川事件」。阪神がドラフトで交渉権を獲得した江川とのトレードで1979(昭和54)年、巨人から阪神に移籍した悲劇のヒーローだった。

 巨人と阪神の違いを小林は語っている。掛布雅之は小林の「阪神には歴史があっても伝統がない」という言葉に「何言ってんの?」と悔しがった。その言葉を聞いて発奮したことで本塁打王になった。江川との対談をまとめた『巨人―阪神論』(角川書店)にある。

 また、岡田彰布によると、小林は「巨人の選手は試合前にひげをそるけど、阪神の選手は試合が終わってからひげをそる」とも話していたそうだ。

 ただ、小林は「阪神は個々の力はある」とみていたのもまた確かである。小林入団の79年、自身は最多勝で掛布は本塁打王だった。小林引退の83年、真弓明信が首位打者、福間納が最優秀防御率。巨人のタイトルは原辰徳の打点王だけ。それでも巨人は優勝し、阪神は4位だった。

 川藤幸三はある夜、小林と飲んだ先で「おっさん、悔しいだろう」と言われた。「オレはこのメンバーで勝てないのは本当に悔しい。巨人と違うのは一つのもの(勝利)に向かう気持ちなんだ。自分さえ良ければいいという野球ではここ一番で負ける。おっさん、まとめてくれ」

 85年の優勝を川藤は小林が植えつけた「Gの遺伝子」の遺産だと言う。チーム全体で勝ちにいく姿勢である。だから、85年に日本シリーズを制した夜、祝勝会の2次会に小林を呼んだ。「今回の優勝にはコバ(小林)の熱い思いも入っている」と語りかけ、美酒をともにした。

 いまの阪神はどうだろう。巨人と比べ、個々の選手の力量差はさほどないように感じる。では、その差は小林の言うように、チームの一丸性や勝利への執念だろうか。組織力だろうか。

 個人記録を追ういま、団体競技の妙を思っている。=敬称略=(編集委員)

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