【内田雅也の追球】黄色いウエーブを起こそう ファンが後押しで決勝点を奪った阪神

[ 2020年9月22日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神5―3DeNA ( 2020年9月21日    甲子園 )

8回、戸柱の捕逸の間に二塁を陥れる大山
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 甲子園球場完成から5年、中等野球(今の高校野球)人気沸騰で観客席が足りなくなった。阪神電鉄は1929(昭和4)年、春の選抜大会が終わると、内野スタンドと外野席の間にコンクリート50段(高さ14・3メートル)のスタンドを新設した。

 同年夏、新しいスタンドを目にした大阪朝日新聞記者で登山家の藤木九三は「アルプスだ」と思った。<秩父宮を案内して登頂したマッターホルンの雪をいただいた頂上のようだ>。玉置通夫『甲子園球場物語』(文春新書)にある。スタンドは白いシャツを着た人で埋まっていた。

 この話をもとに漫画家・岡本一平が8月14日付の大阪朝日新聞1面で漫画漫文を書いた。<ソノスタンドハマタ素敵ニ高ク見エル、アルプススタンドダ。上ノ方ニハ萬年雪ガアリサウダ>。この通称はラジオも伝え、広まった。

 この日、そのアルプススタンドにも観客が入った。5000人の入場制限が緩和されて初めて迎える甲子園球場での試合だ。観衆1万1384人ながら、場内ぐるりとファンが詰めかけた雰囲気はやはり違った。

 セ・パ交流戦で甲子園での試合を前にしたオリックス先乗りスコアラーの報告に「甲子園の歓声は要注意」とあったのを思い出す。「何でもない場面でも大ピンチのように錯覚してしまう」
 8回裏の決勝点はまさにそんな阪神ファンが後押ししていた。3―3の同点。先頭の大山悠輔が左前打で出ると、場内のボルテージが上がった。

 相手DeNA監督のアレックス・ラミレスが敗戦後に語っている。「終盤、甲子園でタイガースの先頭打者が出ると、雰囲気的に得点するようなことを結構見てきた。今回もそうだった」

 投手・国吉佑樹は乱れた。ただ、この乱調を逃さなかった攻撃は見事だと書いておきたい。高めのボールを前に弾いた捕逸でも大山は判断よく二塁を陥れた。前の打席で特大同点弾を放っていたジャスティン・ボーアが軽打でシフトの逆、二塁左を抜いて勝ち越した。代走・植田海が暴投で二進。原口文仁は追い込まれても二ゴロ進塁打を転がし、浅い中飛でも俊足植田は本塁に還った。

 阪神ファンの作詞家・阿久悠が2003年優勝時、本紙に寄せた『平成球心蔵』は<人間は歓(よろこ)びたい>として<庶民の祈り>が<甲子園球場に 黄色い大津波を起こし>と書いている。

 今はスタンドを黄色い服を着たファンが埋める。黄色いウエーブのようだ。10月になれば、さらに2万人程度まで入場者制限が緩和される。波は勝てば大きく強くなり、乗っていける。=敬称略=(編集委員)

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