【内田雅也の追球】「球際」の強さ生んだ阪神の「ひたむきさ」 原点見た「2死後」「大差後」

[ 2020年9月18日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神11-0巨人 ( 2020年9月17日    東京ドーム )

<巨・神(16)>2回2死二塁、大山は右前適時打を放つ(撮影・坂田 高浩)
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 「球際」は巨人V9監督・川上哲治の言葉である。著書『遺言』(文春文庫)で<わたしの造語で相撲の土俵際の強さから採ったものだ>と明かしている。<捕れそうにない球を飛び込んでいって捕って、捕れなければグラブではたき落としてでも食い止めるプロの超美技のことである>。

 後に打撃でボールとバットが当たる瞬間でも球際と使うようになった。

 阪神監督・矢野燿大は15日も16日も、敗戦後にこの球際を使った。「球際がうちの課題。巨人との差」と語っていた。

 この夜はその球際の強さがあったと言える。大きかった2回までの大量5点のうち、近本光司の初回先頭打者本塁打を除いた4点を2死から奪った。

 大リーグのボックススコアには「2 out rbi」と特記している場合がある。「2死後打点」で「あと1人」での勝負強さに価値を見いだしているかのようだ。この「2死後打点」が3点あった。

 1回表は2死満塁から陽川尚将が押し出し四球を選んだ。際どい球を見極め、ファウル4本で粘り、フルカウントから奪った四球だった。

 2死無走者から3点を奪った2回表は、ジェリー・サンズが内角高め速球を詰まりながらも中前適時打した。大山悠輔は追い込まれながら右前適時打した。打球はライナー性で右翼手が飛び込んだが及ばなかった。球際勝負に勝ったわけだ。

 西勇輝完封がかかった9回裏は途中出場の江越大賀が左邪飛をフェンス際で、荒木郁也が一ゴロハーフバウンドを好捕した。大量リードでも最後まで集中力を切らさず、球際で粘ったわけだ。

 西は7―0の9回表1死二、三塁の打席でも果敢に打ちに出て三ゴロで疾走、悪送球を呼んだ。ここから4点を奪った。

 ヒーローインタビューで話した「子どもたちも必死なプレーを見てくれていると思うので、最後まで全力疾走、頑張っていきたい」という姿勢に感じ入る。

 優勝という目標は遠のいたが、何のために野球をやっているのかという目的があるではないか。ファンに訴えかける、感動や夢を与えるというプロとしての原点を見た気がする。

 川上も先の書で「球際のプレー」を生む要因を<計算してやるのではない><プロの神髄であり、最も純粋で崇高なプレー>としていた。矢野が就任時から繰り返し訴えてきた「全力疾走」や「ひたむきさ」に通じる心だろう。

 今季開幕から8連敗を喫していた東京ドームでの初勝利である。川上巨人の名参謀、牧野茂は「勝った試合後こそ、なぜ勝ったかの要因分析を行った」と語っている=労働省広報室編『労働時報』1980年3月号=。ひたむきさが生んだ勝利だと覚えておきたい。

 別件で一つ。1回表2死満塁、二ゴロで一塁走者・陽川が二塁手と接触し守備妨害でアウトとなった。陽川は外野側に避けたが、二塁手はわざと左手を出していたように見えた。緩く、内野安打になりそうな打球で、テレビ解説者が二塁手について「うまい演技」「頭脳的プレー」と話していた。サッカーの「マリーシア」(ずる賢いプレー)だろうか。

 実際に接触が起きたわけで、審判の判定もルール通りだろう。ただし、マナーとしてはどうだろうか。後味は悪かった。=敬称略=(編集委員)

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