【内田雅也の追球】目標を見失いそうな時は…自力優勝の可能性消滅の阪神に「目的」を問う

[ 2020年9月16日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神3-6巨人 ( 2020年9月15日    東京ドーム )

<巨・神(14)>ベンチで戦況を見つめる矢野監督(撮影・北條 貴史)
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 バスターは和製英語でバスタード(偽物)バントの意味と言われる。V9時代の巨人がベロビーチキャンプでの実戦練習中、ドジャース会長秘書だったアイク生原が打者がバントの構えから打ちに出る瞬間、「バスタード!」と叫んだのが広まったと伝わる。

 バーステッド(爆発した)プレーがなまったとの説もある。バントからの強打で爆発的な攻撃という連想だろうか。

 いずれにしても阪神はこのバスター・エンドラン失敗が焦点だった。

 2点を追う7回表無死一、二塁で梅野隆太郎。初球バントの構えでボール。2球目に仕掛け、空振り・三盗失敗と好機は一瞬で去った。爆発期待のバスターには当然だが不発時の危険が伴う。監督・矢野燿大は「勝負にいった結果」と言った。勝負師としてばくちに出て敗れたわけである。

 バントさせるべき、普通に「打て」でよし……など采配ミスの指摘、批判、非難も指揮官として受けとめるしかない。先に当欄で書いたように、今や結果がすべての時期なのだ。もとより矢野は勝敗の責任は負うという覚悟はできている。

 自力優勝の可能性が消え、巨人にマジックナンバーが点灯した。10・5ゲーム差まで開いた今、絶望感が漂う。開幕前に掲げた優勝という目標を見失ってしまうのか。

 いや、少し待ってもらいたい。目標は確かに勝つこと、優勝である。ただし、目標の前に目的がある。つまり「何のために野球をしているのか」という究極の問いだ。

 新型コロナウイルスの感染拡大で春夏とも高校野球甲子園大会が中止となった。阪神は自分たちが試合や練習をする甲子園の土を集め、全国約4000校、約5万人の3年生球児に贈った。その土をネット上で売るという憤怒の一件はごく一部の仕業だろう。多くの球児は「甲子園」という目標をなくした後も、懸命に練習を積んでいた。

 「練習常善」を説いた「学生野球の父」飛田穂洲は1939(昭和14)年に記した『少年球児に与う』で<野球試合は優勝旗の争奪のみが目的ではない><魂の鍛錬を唯一の目的>と書いた。

 アマチュアと一緒にするな、との声には反論したい。野球を職業としているプロ野球選手たちは日々、「自分は何のために野球をしているのか」と自問自答している。むろん、給料を得るためなのだが、それだけでは、この厳しい勝負の世界で日々を過ごすのは辛い。

 ファンの声援や、家族の助けがなくては、やっていけないのだ。プロこそ、目的を確認・再確認しながら精神性を高めないと生きていけなくなるのだ。

 だから猛虎たちは、矢野が監督就任時に掲げた原点を思い返したい。目標として「誰かを喜ばせる」を「優勝」の上に置いていたではないか。赤星憲広(本紙評論家)との対談で「優勝は当たり前で物足りなくて、その上をいきたかった」と語っていた。

 それが目的だ。ファンからお金を得るプロは何を売っているのか。高い技術も売るが、心を、夢を売っている。=敬称略=(編集委員)

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