【内田雅也の追球】谷間脱出への「四球」 不振の阪神打線が手本にしたい梅野の姿勢

[ 2020年8月20日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神0-8巨人 ( 2020年8月19日    東京ドーム )

<巨・神(9)>7回1死、梅野は四球を選ぶ(投手・高梨)(撮影・椎名 航)
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 2試合続けて零敗、連続27イニング無得点と不振の阪神打線が手本としたい打者がチーム内にいる。梅野隆太郎だ。

 3割は切ったが(打率2割9分9厘)、チーム一の高打率だから、ではない。打席での姿勢である。梅野はほとんどボール球を振らない。際どいボール球を見極める選球眼もある。

 この夜は3打席連続で四球を選んだ。各打席ごとの投球を書き出してみる。(○見逃しストライク、◎空振り、-ファウル、●ボール)

 2回表○●●●○●
 4回表●●◎●○●
 7回表●○●-●●

 3打席ともフルカウントから四球を選んだ。計18球のうち、バットを振ったのは空振りとファウルの2度しかない。

 先発の左腕C・C・メルセデスに対した2回表は速球、スライダーで内角を攻められた4球のボール球をすべて見極めて歩いた。右腕・田中豊樹には主に外角低めを突かれ、スライダーも見極めた。左腕・高梨雄平には2ボール2ストライクと追い込まれてから、バックドアの外角スライダーを続けて見極めた。

 打ちたい気持ちを自制し、無理に難しい球を打ちにいっていないのだ。

 梅野は決して打撃が好調なのではない。7月はセ・リーグ最高の打率3割6分7厘と打ちまくったが、8月は目下2割1分8厘。16日の広島戦から3試合続け、10打席安打がない。それでも調子を整えるため、そして不振脱出への姿勢はできていると言える。

 現役時代同じ捕手で、首位打者にもなった元ヤクルト監督の古田敦也が打撃不調のとき「打席に入ってもフォアボールしか狙いません」と語っている。著書『「優柔決断」のすすめ』(PHP新書)にある脳科学者・茂木健一郎との対談である。

 「不調のときは、たいていボール球に手を出してしまう。不思議なもので、調子が悪いときに限って打ちたくてしょうがないんですよ」やはり自制心が肝要のようだ。

 そして「うまくフォアボールが取れると、ピッチャーの方がストライクを取りたくなりますから、しだいに真ん中にボールが集まってくるんです」。

 単純な待球ではない。むろん積極性は大事である。矛盾するような表現になるが、不調時は積極的に選球したい。

 こうした古田の姿勢は今の梅野に通じている。阪神のチーム全体の不振解消のヒントになるのではないだろうか。

 たとえば、大量ビハインドで敗色濃厚な9回表2死、中谷将大が四球を選んだ姿勢である。スタメンで3打席無安打で、すでに勝敗は決している。打ちたい気持ちを抑えて、フルカウントから外角低めスライダーを見極めたのだった。

 対談では古田の言葉に茂木はいたく感じ入っていた。「人生でも同じことが言えますね。うまくいかないときは人はあがいて余計なことをしてしまう。じっくり現状を見極めて“これだ!”という時だけアクションを起こす」と応じた。「スランプから立ち直るために“人生のフォアボール”を狙うとは、いや、ものすごく深いお話ですね」

 失敗の多いスポーツの野球は人生に似ている。人生も野球も山あり谷ありである。好不調が入れ替わり、波がある打撃もまた山も谷もある。

 今が谷間ならば、四球を選ぶ姿勢、そして意味を考えたい。打った・打てなかった、安打・凡打と結果が出る打席ではなく、「一回休み」のような打席の四球が復調への足場となるのではないだろうか。=敬称略=(編集委員)

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