【内田雅也の追球】大胆シフトの提案 阪神、痛恨の内野安打 西勇登板時の遊ゴロは左に飛ぶ!?

[ 2020年7月26日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神0-1中日 ( 2020年7月25日    ナゴヤD )

<中・神(8)>7回2死三塁、井領の打球で、北條は懸命に一塁に送球するも間に合わず決勝点を奪われる(撮影・椎名 航)
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 スコアをつける際、打球はその野手のどこに飛んだかを「・」印で添えるようにしている。

 小学5年生の1学期、成美堂書店のスコアブックを買ってもらった。冒頭に「大島信雄のスコアのつけ方」が載っていた。今もその方式で書いている。

 ちなみに大島信雄とは岐阜商(県岐阜商)で選抜優勝投手、慶大では「最後の早慶戦」に出場、戦後、プロ野球・松竹入りし、中日した左腕投手だ。恐らく自筆の達筆な説明文と、丁寧な例が転写されていた。

 たとえば、遊ゴロなら「6」に、ゴロを示す「)」(時に省略する)、そして「・」を右(二塁ベース寄り)か左(三遊間寄り)か真下(正面)に添える。

 阪神・西勇輝が打たれた――いや、打たせたと言うべきか――遊撃方向へのゴロは5本あった。1本は正面で、2回裏2死、投手の勝野昌慶が打ったゴロだ。残り4本はすべて三遊間寄りに転がっていた。「・」が「6」の左についている。

 順にあげてみる。

 ▽2回裏1死一塁、福田永将が内角低めシュートに詰まったゴロが遊撃左に。北條史也の好守備で二塁送球、封殺。

 ▽その直後の2死一塁で石川昂弥が真ん中低め落ちる球(チェンジアップか)を引っかけたゴロが再び三遊間深くに転がり、北條は送球をあきらめるほどの内野安打に。

 ▽5回裏先頭。再び石川が内角高めシュートを打ち、ゴロで遊撃左をわずかに抜く左前打。

 ▽7回裏2死三塁。左打者の井領雅貴が内角高めスライダーに詰まったゴロが遊撃左に転がった。北條は逆シングルでさばき、一塁送球したが、間に合わず内野安打に。決勝点を失った。

 西得意の右打者へのシュートに限らず、どんな球種、また打者の左右にかかわらず、遊撃へのゴロは三遊間に転がっていたわけである。

 一方で、8回裏に登板したジョー・ガンケルでは、遊ゴロ2本がともに右の二塁ベース寄りに転がっていた。投手による打球傾向はあるのだ。

 もちろん、たった1試合だけで事を論じるのはどうかと思う。ただ、これまで西が投げた時の打球傾向を見てきて、あの時(決勝打の井領打席の時)、もっと三遊間を狭めては……と案じていたのは本当である。これは野球記者の勘である。

 だが、本来は勘ではなく、統計で話すべきだろう。もちろん、阪神も相手打者だけでなく、投手による打球傾向データはあり、シフトを敷いている。守備コーチが資料を持参してベンチ入りしている。あの時、北條も三遊間に寄っていた。守備も精いっぱいのプレーで、よどみなかった。それでも、あの決勝内野安打は防げなかったのだ。

 阪神には悔しい0―1敗戦だった。西は大のつく好投で、北條も最高のプレーをした。零敗なので敗因は点の取れなかった打線にある。

 それでも……である。それでも、遊撃手はもっと左に寄って、三遊間を詰める手はなかっただろうか。データが手もとにあるわけではないので暴論かもしれない。

 近年はトラッキングデータが活用されている。野手、走者、ボールの動きをすべて記録する「FIELDf/x」で分析される。少し古いが2015年8月発行、データスタジアム株式会社が著した『野球×統計は最強のバッテリーである』(中公新書ラクレ)ではポジショニングについて<より効果的な守備戦術をとることが可能になる>とある。

 この日開幕した大リーグ。テレビ中継を見ていても非常に大胆な守備位置を敷く。打球傾向は洗い出され、ゴロはほとんどシフトの網にかかる。だからこその「フライボール革命」だと聞いた。つまり、ゴロよりもフライを打った方が安打になる確率は高いというわけだ。

 打たせて取る西登板時はいかに守るかも大切な要素だ。ポジショニングのシフトも物を言う。「遊撃左」は一つの焦点だろう。
 好投の西には申し訳ない敗戦だった。今季阪神防御率は1点台、登板6試合すべてクオリティースタート(QS=投回数6以上、自責点3以下)だが、まだ2勝。2敗は「タフ・ロス」(不運で厳しい敗戦)である。=敬称略=(編集委員)

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2020年7月26日のニュース