人吉 被災者を元気づける快勝 芦北は“短い夏”も野球ができる喜びに笑顔

[ 2020年7月24日 05:30 ]

熊本県城南地区大会1回戦 ( 2020年7月23日    県営八代 )

2安打を放った人吉・尾崎龍馬
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 豪雨で大きな被害を受けた熊本県南部の城南地区では23日、3試合が行われた。グラウンドが浸水し、多数の野球部員の自宅も被災した人吉や芦北も登場。困難な状況下で、ナインは全力プレーを披露。避難所生活を続ける家族、被災者を元気づけた。

 避難所に希望を届けたい。校舎に被害はなかったが、豪雨により6日から13日まで休校を余儀なくされた人吉が、連合チーム(御船・矢部)に9―3で快勝した。2安打を放って存在感を見せた4番・尾崎龍馬内野手(3年)は球磨村の自宅が被災。母や祖父母らとともに現在も人吉第一中学の体育館で避難生活を続ける。

 「しっかりと眠れているけど、ユニホームを洗うのが大変。体育館の外で洗ったりしています」

 これまでとは違う生活に戸惑いながらも、「こういう状況でも野球をやらせてもらってうれしい」。目標は決勝トーナメントが行われるリブワーク藤崎台球場行きの切符だ。「大学でも野球を続けたい」と話す主砲のバットがチームをけん引する。

 尾崎太透(たすく・3年)捕手は球磨村の自宅が被災。一時は避難所で生活し、現在は人吉市内の母の実家から通学している。

 ユニホームが流されてしまったが、この日は原口拓磨監督や卒業生から贈られたユニホームでプレーした。3投手をリードしてチームを勝利に導き、「もう野球ができないんじゃないかと思ったこともあったけど、気持ちも落ち着いてきた。いろいろな支えがあって試合ができてる。プレーで恩返ししていきたい」と誓った。

 一方、芦北は八代東に0―8で7回コールド負けしたが、野球ができる喜びにあふれていた。ゲームセットまで笑顔を絶やさなかった。甚大な被害に見舞われた熊本・芦北町で唯一の高校。学校も一部浸水し、グラウンドは土砂がたまり、使用できる状況ではなかった。20日にようやく学校が再開。3年生たちの最後の夏に、どうにかこぎつけられた。

 橋本魁翔(かいと)主将(3年)は「田んぼのようになっていたグラウンドを見て心が折れかけた」と心境を吐露。部室にあったボールは全てが使用不可能になった。それでも「県内や、他県の高校さんからバットやボール、ヘルメット等の物資や、さまざまな応援メッセージを頂いた」。2017年に夏の甲子園を制した埼玉・花咲徳栄高校の昨夏出場メンバーからは、マネジャーを含む3年生7人に“甲子園の土”が贈られたという。

 「普段通りに試合ができたのも、いろいろな方のおかげ。その恩返しの意味でも、勝っても負けても感動できる試合にしようと」。チームのスローガン「常笑軍団」通りに、最後まで笑顔だった。

 初戦で敗退したが、感謝の気持ちを胸に戦い抜いた。最後は「18年間、お世話になってきた芦北町が大変な状況になっている。これからも、なんらかの形で恩返ししていきたい」と前を向いた。

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