江夏がノーヒットノーラン達成試合で放った超希少アーチ

[ 2020年4月26日 08:00 ]

1973年8月30日、中日戦の延長11回、自らサヨナラ本塁打を放ちノーヒットノーランを達成した阪神・江夏
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 【宮入徹の記録の風景】今から47年前の出来事になる。阪神の江夏豊は1973年8月30日の中日戦(甲子園)に先発。初回先頭のウィリアムを遊ゴロに打ち取ると、以後中日打線につけ入るスキを与えず、9回を無安打0点に抑えた。ところが味方打線は中日の先発投手、松本幸行の前にこちらも9回まで3安打無得点と沈黙。試合は延長戦に突入した。

 2人の投げ合いは続き、10回は両軍無安打でともに0点。11回表は江夏が3者凡退で切り抜ける。その裏、先頭打者として江夏が打席に入った。松本の初球を捉えると打球は右翼席に飛び込むサヨナラ本塁打。ノーヒットノーラン達成を自らのバットで締めくくった。同一試合でノーヒットノーランとサヨナラ本塁打をそろってマークしたのはこの時の江夏だけ。プロ野球の歴史の中でも別格の記録といえるだろう。

 さらに江夏のように0―0で迎えた最終回の先頭打者が、初球をサヨナラ本塁打した例は極めてまれ。1リーグ時代は1本もなく、2リーグ制後ではセ・リーグ3本、パ・リーグ2本の計5本しかない。昨年までプロ野球の総本塁打数は10万3423本だから、およそ2万本に1本しかお目にかかれない貴重なアーチだ。

 こうした珍しい劇弾の第1号は渡辺礼次郎(国鉄)が54年9月11日中日戦で記録した。9回石川克彦から放ったが、渡辺はこの年が1年目。ルーキーながら思い切りのいい打撃で決着をつけた。2本目はそれから13年後。大杉勝男(東映)が67年4月12日東京戦でマークした。延長13回、大エースの小山正明からの一撃だった。この試合で東映の先発投手、高橋善正はプロデビュー。13回を投げ2安打無失点でプロ初登板完封の快挙を達成した。

 3人目は桜井輝秀(南海)が73年6月7日太平洋戦の9回に記録。翌日のスポニチ大阪版では当時プレーイングマネージャーだった野村克也が打席に向かう桜井に「オイ、サク(桜井)初球を逃すな」とアドバイス。名将の指示がピタリとはまったことを報じている。そして4人目は冒頭の江夏で、5人目は74年8月13日阪神戦で上垣内誠(広島)が9回に放った。実はこの時の相手投手が江夏だった。こうしたケースで打って、打たれたのはもちろん江夏しかいない。

 0―0からの条件を外すと、最終回先頭打者の初球サヨナラ本塁打はプロ野球で51人(53度)。1人で2度は船田和英(ヤクルト)と垣内哲也(西武、ロッテ)がいる。船田はヤクルトが初めて優勝した78年に6月6日巨人戦(投手・角三男)で4―4の10回、9月19日中日戦(星野仙一)で5―5の9回と同一シーズンで2度やってのけた。一方、垣内は西武時代の99年9月15日ロッテ戦で1―1の9回、ロッテ時代の04年9月11日の日本ハム戦で2―2の11回にそれぞれマーク。2球団で記録したのは垣内だけだ。

 興味深いのが巨人。これまで「最終回先頭打者初球サヨナラ弾」はチームで3人いるが全て2000年以降に生まれたもの。00年6月28日阪神戦で高橋由伸が5―5の9回、同年7月16日ヤクルト戦で二岡智宏が4―4の9回、そして12年10月7日DeNA戦で代打の矢野謙次が1―1の10回に記録した。巨人には通算868本塁打の王貞治を筆頭に長嶋茂雄、原辰徳、松井秀喜、阿部慎之助と名だたるスラッガーがずらりそろう。それでも相手投手の警戒が厳しく、こうした一発とは無縁。長距離砲ほど難易度の高いことを示している。(敬称略)

 ◆宮入 徹(みやいり・とおる)1958年、東京都生まれ。同志社大卒。スポニチ入社以来、プロ野球記録担当一筋。94年から15年まで記録課長。

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