【内田雅也の追球】「心の習慣」をつくる時――「鉄人」の記録ストップの日に思う

[ 2020年4月16日 08:00 ]

11年4月15日、8回代打で出場も、俊介の盗塁死で連続試合出場が止まった金本
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 阪神・金本知憲の連続試合出場が止まった日だった。9年前、2011年4月15日の中日戦(ナゴヤドーム)である。

 「鉄人」は筋断裂の右肩痛と闘いながら、前年4月に先発落ちを直訴し、フルイニング出場は1492試合でストップ。連続試合出場は続けていた。

 この日は8回表2死一塁で代打で登場。だが、2球目に一塁走者が盗塁に失敗し3死。打席を完了せずに退き、守りには別の選手が就いた。公認野球規則上、試合出場は1だが、連続記録の要件は満たさなかった。思わぬ形で記録は1766試合で途絶えた。

 試合後、金本は「全然。笑えるくらいだった」と話し、落胆は見えなかった。開幕前、監督・真弓明信に「チームに迷惑をかけたくない。記録のことは考えないでください」と伝えていた。

 金本にとって試合に出ることが当たり前の日常だった。いや、試合に出るための準備が当たり前の習慣だった。

 連続出場は止まってもリハビリは続けた。早く球場入りし、ランニングに筋力トレーニングを行う。<それは、もう習慣のようになっていたし、やらないと気持ち悪くなるので特別なことをやっている気にはならなかった>と引退後に出した著書『人生賭(か)けて』(小学館文庫)に記している。この習慣こそ、金本の本領である。

 習慣とは恐ろしい。映画『がんばれ!ベアーズ』(1976年公開)で負けてばかりの少年野球チームを率いることになった元マイナーリーガーの中年男性が選手たちに語りかける。

 「やめたいか? 気持ちは分かる。でもなあ、この“あきらめる”ってやつは、一度始めたら習慣(くせ)になって、止められなくなるぞ」

 ダメな彼らは奮起する。

 「素晴らしい人生を保証してくれるのは才能ではなく習慣だ」と、喜多川泰の小説『書斎の鍵』(現代書林)で若い主人公が恩師から諭される。「習慣によってつくりだすべきものは思考だ。心と言ってもいい」「人間の思考には習慣性がある。つまり、放っておくと、いつも自分に自信がない方向に物事を考える」。行動は心に左右されるわけで、つまりは「心の習慣」をよくしたい。

 新型コロナウイルスとの闘いはまだまだ先がある長期戦となりそうだ。晴れて外に出て、野球が楽しめる時が来るまで、良き習慣を身につけておきたい。今はそんな習慣作りの時期である。=敬称略=(編集委員)

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2020年4月16日のニュース