東日本大震災から9年 ヤクルト嶋、東北へ変わらぬ思い「復興に終わりない」

[ 2020年3月11日 05:30 ]

試合前、黒マスク姿のつば九郎に迎えられ球場入りする嶋(右)と上田(撮影・村上 大輔)
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 死者・行方不明者が1万8000人を超えた東日本大震災は11日、発生から9年を迎える。当時、楽天で選手会長を務めていた嶋基宏捕手(35)はプロ13年目を終えた昨年オフに出場機会を求めて自由契約を申し入れ、ヤクルトに入団。チームは変わっても未曽有の大災害から完全復興を目指す東北への変わらない思いを語った。

 消えることのない痛み。普段は理路整然と語る嶋の口は重かった。考えた末につないだ言葉には、9年前と変わらない悲しみがあった。

 「実際に被災された人たちに、僕は簡単に言えない。正直、これで復興が終わりとかそういうものは絶対にない。家族を亡くしたりした方にとって一生、その傷は癒えることはないと思うので…」

 2011年3月11日。前年10月に選手会長に就任した嶋にとっても、人生を変える一日になった。震災発生以降、遠征地を転々とする日々。交通網が寸断される一方で、選手は「一日も早く本拠地へ戻りたい」と思いを募らせた。だが、安全面や調整面からなかなか許可が出ない。選手代表として当時の星野仙一監督にも直談判したほど。一方では募金活動などで先頭に立った。異常事態が続いた4月2日。札幌であのスピーチが生まれた。「見せましょう、野球の底力を」。用意された原稿を固辞し、ありのまま、自分の言葉をつないだ。思いは全国のファンに届き、多くの被災者は感動の涙を流した。

 一方でこのスピーチが嶋自身にも重くのしかかった。以来、もはや「一選手」ではなく「3・11を象徴する選手」となった。葛藤は今なお続く。「僕は今、ヤクルトのユニホームを着て野球をやっている」。被災地への思いは強い。オフには復興支援の活動を続ける。「底力」の言葉に励まされた人々の思いも胸にある。だが、グラウンドでは「一選手」。その葛藤こそ、震災が嶋の心に深く刻んだ痛み。「残り少ない野球人生をしっかりやって、まだ嶋は頑張っているって、少しでも見せられればいい」。さまざまな思いに、今はそう応えるしかないと思っている。

 あの年以来の開幕戦延期が決定。「ちょっと状況は違う」としたが、無観客のオープン戦である思いを再確認した。「ファンの皆さんを大事にしないといけないと、もう一度、改めて感じることができた」。9年目の3・11。チームは変わっても、被災者たちに寄り添う思いは不変だ。(春川 英樹)

 ▽嶋の「底力」スピーチ 東日本大震災から約3週間が経過した2011年4月2日、復興支援の慈善試合が行われ、楽天の選手会長だった嶋が日本ハム戦(札幌ドーム)の前にスピーチ。「あの大災害、本当にあったことなのか今でも信じられません」と話し始め、約3分間、被災地に寄り添う言葉を述べた。「見せましょう、野球の底力を。見せましょう、野球選手の底力を。見せましょう、野球ファンの底力を」という強いメッセージは多くの共感を集め、同年の流行語大賞にノミネートされた。

《ベンチ入りも出番なし 広島戦2回終了時雨天ノーゲーム》
 ○…この日、嶋は神宮で行われた広島とのオープン戦でベンチ入りも、2回終了時に雨天ノーゲームとなり出場機会はなかった。試合前練習では神宮室内で打撃練習などを実施。改めて被災地への思いを問われると「あの日のことを忘れることはない。前には進んでいるとは思いますけど、決して忘れてはいけないこと」と神妙な面持ちで語った。ヤクルトの一員で迎える「3・11」。「東北にいるのと、こっちにいるのは違うと思う。でも、少しでも頑張っている姿を見せたい」と力を込めた。

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