【内田雅也の追球】ファンが“育てた”野球を守る時――「無観客」の球春

[ 2020年2月28日 07:30 ]

東日本大震災の影響で2011年には実戦形式の合同練習が無観客の中で行われた
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 アレクサンダー・カートライトが1845年、3死で攻守交代、今に通じる野球のルールを確立させた際、画期的だったのはファウルラインを設けたことだろう。

 それまでのタウンボールなど原型球技では打球は後方も含め、360度すべてフェアだった。90度のフェア地域とその他ファウル地域を定めたおかげで、試合を観る人びとのスペースができた。後にバックネット、フェンス、観客席(スタンド)も整っていった。

 <アメリカにおいては観客というものの発生がベースボールの誕生と同時だった>と野球史家とも呼ぶべきノンフィクション作家・佐山和夫さんの『メジャー・リーグを100年分楽しむ』(河出書房新社)にある。

 観客の増加は後の大リーグにつながるプロチームの誕生を後押しした。<ルール変更なども観客の立場からのものが多い>。たとえば悪球(ボール球)出塁のルールも当初の9球から8球、7球……と減り、1889年に現在の四球で落ち着いた。技術が進歩し、出塁が減って退屈だというファンの要望に応える形でのルール変更だった。

 近年のスピードアップへの取り組みやストライクゾーンの解釈変更、マウンドの高さ変更などもファンに“見せる”ためのルール変更だと言えるだろう。

 そんな、常に観客とともにあったプロ野球が「無観客試合」を決断した。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、日本野球機構(NPB)と12球団が26日、オープン戦残り全72試合を、観客を入れずに行うことを決めた。斎藤惇コミッショナーは会見で「球団経営に関わる問題だが、感染がこれ以上拡大すると、まさに国難になる。苦渋の決断だ」と語った。

 政府の専門家会議が24日に発表した「これから1、2週間が急速な拡大か収束の瀬戸際」という見解、さらに安倍晋三首相がスポーツや文化イベントの中止・延期・縮小を要請したことを受けての措置だった。

 オープン戦の無観客試合は史上初めてのことだ。2011年、東日本大震災の後、無観客試合を行ったが、オープン戦を練習試合に切り替えたものだった。当時は公式戦開幕を2週間以上延期している。

 今回は「3月20日のレギュラーシーズン開幕を迎えるため」(斎藤コミッショナー)と、現段階では公式戦を予定通り開催する構えでいる。だが、実際に感染が広まるか収まるかは誰にも分からない。

 ファンにとっては球場に行くことができない寂しい球春となる。先の書に<ベースボールは最初から観客とともに成長してきた>とあった。

 今は辛抱し、力を合わせウイルスまん延を防ぎたい。ファンが育ててきた野球を守る時にある。(編集委員)

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