楽天イーグルスに今も東北を背負う覚悟はあるか

[ 2019年10月22日 08:30 ]

今季限りで楽天を退団する嶋
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 【君島圭介のスポーツと人間】7年も前のことだ。千葉の海岸で遊んでいた当時3歳の息子が岩場でカニを見付けた。一生懸命に捕まえようとするが、相手の動きは素早く幼児の手から逃げていく。

 何度も失敗を続けて落胆する息子の姿を見かねたのだろう。近くで遊んでいた楽天の野球帽をかぶった少年が、自分のバケツから一匹譲ってくれた。少年にお礼を言ってから「マー君のファン?」と尋ねた。場所はロッテの地元だ。Eマークの帽子を見るのは珍しかった。その少年は、手元のバケツに目線を落とすと「前、宮城に住んでいたから」と小さく呟いた。

 この出来事は東日本大震災の翌年、2012年5月26日付のスポニチ本紙コラム「十字路」に書いた。それ以上の質問をするには、震災の爪痕も生々しい時期だ。あれほど上手に磯のカニを獲れる少年が、宮城で海に慣れ親しんで暮らしていたことは想像に難くない。

 2011年4月2日に仙台で行われた慈善試合の楽天―日本ハム戦には、当時楽天のエースだったマー君こと田中将大投手(現ヤンキース)と日本ハムの斎藤佑樹投手が並んで募金活動を行った。そして、あの名スピーチが披露された。

 「見せましょう。野球の底力を……絶対に見せましょう、東北の底力を!」

 嶋基宏捕手が発信した言葉は、震災からの復興における東北の、野球界のキーワードとなった。そして、あの日から楽天は特別な球団になった。東北が「ひとつ」になる象徴となった。嶋が、いや楽天球団が、あのスピーチでその覚悟を示したのだ。

 楽天帽子の少年を書いたコラムを、私はこう締めくくった。

 「野球記者として一球団をひいきにすることはない。それでも楽天には声援を送ってしまう。勝利の度、あの帽子の少年が笑うと思えばなおさらだ」

 2013年の楽天日本一の瞬間、真っ先に浮かんだのは息子にカニを譲ってくれた、あの優しい少年の顔だった。

 2年ぶりにAクラス復帰した今年、創設1年目に入団した平石洋介前監督は球団を離れた。そして嶋も21日に退団を申し入れ、去っていった。

 あの少年は今、高校生くらいだろうか。そして東北の誇りとして、今の楽天イーグルスもしっかり応援してくれているだろうか。(専門委員)

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