【内田雅也の追球】「のぞみ」ある限り――CS窮地 阪神の生き方

[ 2019年9月9日 07:30 ]

セ・リーグ   阪神2―3広島 ( 2019年9月8日    マツダ )

阪神の選手たちが広島駅から乗った新幹線のぞみ号
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 広島から新幹線に乗る時は、いつも気持ちがふさいでいる。マツダスタジアムでのデーゲームを終え、荷物を手に広島駅まで歩く。いつも負けた後のような気がする。

 監督時代の金本知憲と新幹線の席が通路をはさんで隣同士になったことがあった。「広島からの帰りはいつも負けた後のような……」と問いかけると「ホント、そうですね」と苦笑いしていた。

 この日も同じだ。昼間は35度を超す猛暑だったが、夕方には涼しい風も吹き、飛行機雲が美しかった。ただし、試合は負けた。ビハインドでも勝ち継投の救援投手をつぎ込み、食い下がった。悔しい1点差だった。

 クライマックスシリーズ(CS)進出を争う広島との3連戦に負け越し、ゲーム差は3・5。窮地に追い込まれた。

 新幹線に乗る時、「また同じだ」とデジャビュ(既視感)に襲われた。気になったので調べてみた。マツダスタジアムでのデーゲーム、試合後移動の日の成績である。

 今年は2敗目(2勝)だった。金本が監督に就いた2016年以降で通算すると、7勝5敗(他に降雨中止1)と、何と勝ち越している。勝って新幹線に乗ったことの方が多いのだ。負けたて乗ったという印象の方が強く残っているのだ。

 アメリカのベテラン・コラムニスト、ロジャー・エンジェルが著書『シーズン・チケット』(東京書籍)の「序」で書いていた。<ついにひとつの単純な真実に気づいたからである。それは、このスポーツ(野球)が「勝つことよりも負けることのほうが多い」という事実である>。

 エンジェルもまた負けた試合の方が強く印象に残っているわけだ。

 そうなのだ。人生に似る野球である。七転び八起きと言えばいいだろうか。勝ちっ放しの人生などないように、野球もまた負けては立ちあがる……といった日々を繰り返すのである。

 ベストセラー『マネー・ボール』の著者マイケル・ルイスが編集者に「何でも好きなものを」と言われ書いたのが『コーチ』(ランダムハウス講談社)だった。厳しかった高校時代の野球部コーチ、フィッツを描いた。

 <人生には、あきらめるための安易な言い訳がいくらでも転がっている。そのすべてに打ち勝って、自分の道を切り開いて進む姿勢の大切さ。それがフィッツの言う「肝心なこと」なのだ>。

 生き方を問われているかのようだ。野球も人生も希望を持ちたい。広島から乗った新幹線は「のぞみ」号だった。=敬称略=(編集委員)

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