【内田雅也の追球】9月に味わうコーヒー 復活星の岩貞にみる阪神の底力

[ 2019年9月2日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神4―2巨人 ( 2019年9月1日    甲子園 )

5カ月ぶりとなる今季2勝目を挙げた岩貞(撮影・成瀬 徹)
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 映画『ワン・カップ・オブ・コーヒー』(1993年・米)は大リーグを3週間だけ経験した41歳のベテラン投手の物語だった。タイトルになっている「カップ・オブ・コーヒー」は大リーグの俗語で、コーヒーを1杯だけ飲むような短い期間、大リーグにいた選手といった意味だ。

 多くはそれを9月に経験する。9月1日になると、大リーグのベンチ入り登録枠が25人から40人に拡大されるからだ。「セプテンバー・コールアップ」(9月招集)と呼ばれる。マイナーからの新戦力起用や若手登用など、日々の戦いに新味が加わることになる。

 この夜の阪神先発、岩貞祐太はある意味、このコールアップを受けた格好だった。この日1軍登録され、そのまま先発マウンドに上った。

 1軍登板は4月28日中日戦以来だった。5月上旬にインフルエンザにかかり登録抹消となった。その後も脇腹を痛めるなど、夏場は2軍での調整に費やした。

 約4カ月ぶりのマウンドには期するものがあったろう。1、2回は先頭打者に安打を浴びたが切り抜けた。6回を3安打無失点、二塁すら踏ませぬ快投だった。特に岡本和真を凡ゴロ、凡飛にとったチェンジアップが右打者によく効いていた。

 勝ち星は開幕2戦目の3月30日ヤクルト戦以来、約5カ月ぶりだ。岩貞がコーヒーを飲むのかどうか、クラブハウスで飲んだのかどうかは知らない。ただ、1軍の味はやはり格別だったろう。

 米国の野球史家、ジョン・ソーンは「9月は4月と激しい対照を描く月である」と言った。「4月には誰もが希望に胸を膨らませていた。もし、野球が人生に似ているとすれば、それは勝つことより負けることの方が多い、という意味である」

 勝者と敗者が色濃く分かれる9月。阪神にはまだクライマックスシリーズ(CS)進出という希望がある。勝者となれる可能性が残っている。

 いま、ファームには岩貞のように9月招集を待つ選手が多くいる。胸突き八丁の残り20試合。1軍のコーヒーを味わおうとしている。彼らの力が物を言う時が来ている。これを底力という。

 別件で一つ。4回裏無死三塁でのジェフリー・マルテを書いておきたい。巨人二遊間は深く定位置で守っていた。3ボール0ストライクから軽打ぎみに遊ゴロを転がし、三塁走者を還したのは殊勲打だと評価したい。豪快さはないが4番の打撃だった。

 あの打席、もし四球を選んで出たとしても、その後得点できる保証などない。確実に奪った、あの先取点があったからこそ、阪神は試合を優位に進められたのだとみている。=敬称略=(編集委員)

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