【内田雅也の追球】「熱い9月」への不屈――前夜の雪辱を果たした阪神・岩崎

[ 2019年9月1日 08:30 ]

セ・リーグ   阪神4―2巨人 ( 2019年8月31日    甲子園 )

8回2死 丸を左飛に打ち取った岩崎(撮影・成瀬 徹)
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 三塁側ベンチにいる巨人監督・原辰徳は覚えているだろうか。そして、思い出しただろうか。

 阪神がリーグ優勝、そして日本一となった1985(昭和60)年のシーズン、監督・吉田義男には口癖だった「挑戦」を地で行く用兵があった。

 5月20日の巨人戦(後楽園)、1点リードの7回裏2死一塁で原を迎えると、吉田は福間納のいるマウンドを訪れた。交代かと見えたが「勝負しなさい」と続投を命じたのである。

 原には前夜、延長10回裏にサヨナラ本塁打を浴びていた。「男冥利(みょうり)に尽きる」と意気に感じた福間は見事、原を右飛に打ち取った。

 吉田は試合後、「福間を早く立ち直らせたかった。攻める気持ちにかけた」と語っている。「やられたら、やり返せ」の気持ちがこもった場面である。

 この夜、似た場面があった。中谷将大の代打ソロ本塁打で1点をリードして迎えた8回表、監督・矢野燿大はマウンドに岩崎優を送った。前夜、中前打を浴びた石川慎吾、そして中越え2ランを浴びた丸佳浩に回る打順だった。

 野球では、目に見えないはずの心が伝わってくる時がある。岩崎の投球にはまさに気迫がこもっていた。石川は直球で押して右飛。坂本勇人を空振り三振に切り、丸も直球で押して左飛に打ち取ったのである。岩崎は感情を表に出さない男だが福間のように「男冥利」に感じていたのではないだろうか。見事な雪辱、リベンジだった。

 福間も岩崎も登板機会の多い救援左腕だ。矢野もまた吉田のように「早く立ち直らせたい」との思いもあったろう。監督と選手、心が通じ合った時の用兵には力がみなぎるものである。

 夏休み終盤、8月最後の日は土曜日の夜で、今季最多4万6788人観衆が詰めかけていた。

 さあ、9月を迎える。大リーグでは9月の優勝争いの激戦を「セプテンバー・ヒート」と呼ぶ。いまの阪神とすれば、クライマックス・シリーズ(CS)進出を争うデッドヒートが待つ。近年は秋の「失速」に失望させていたファンを喜ばせる「熱い9月」にしたい。

 そのために必要な姿勢が、この夜の矢野の投手起用、そして岩崎の投球にこもっていたのではないか。「挑戦」と、「やられたら、やり返せ」という不屈の精神である。=敬称略=(編集委員)

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